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反論が苦手な人の議論トレーニング (ちくま新書)反論が苦手な人の議論トレーニング (ちくま新書)
吉岡 友治

筑摩書房 2014-09-08
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前半は、世界共通で議論に必要な問題→根拠→解決/主張の三段構造を解説する。後半は、二項対立から議論の質を上げる弁証法に重点を置く。最初は音階が異なる世界の音楽に対する2人の意見相違を例に、後半はカントやアーレント、ミヒャエル・エンデなどを出しながら対話(禅の問答の世界に近い印象)が展開される。
「日本史」の終わり  変わる世界、変われない日本人「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人
池田 信夫 與那覇 潤

PHP研究所 2012-09-19
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日本は西洋化によって近代化を成し遂げたと考えられるが、本書によると”日本は西洋化ではなく、中国化している。”という。形上は三権分立とあるが、実質は官僚機構が権力を握る人治政治であるというのがその根拠。

池田信夫氏と與那覇 潤氏の対談形式で書かれているのだが、西洋や中国との文化の違いからDNAとして刻まれているかのような日本人としての考え方を浮き彫りにする。
池田氏の主張は『「空気」の構造: 日本人はなぜ決められないのか』と同じなので、ここでは異なる視点に注目したい。

それは、人類としての謎、宗教。ほとんど実用的な要素のないものに膨大なエネルギーが費やされるのはなぜか。本書が引用するニコラス・ウェイド「宗教を生み出す本能」によれば、戦争に備えるための心的メカニズムだと言う。(P.38)
明治政府が国をまとめるために天皇制を掲げ、靖国神社をはじめ国家宗教として突貫工事的に拵えたのは、実に理にかなっていると納得した。
自分をみつめる禅問答 (角川ソフィア文庫)自分をみつめる禅問答 (角川ソフィア文庫)
南 直哉

角川学芸出版 2011-12-22
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禅僧と一般人の対話、所謂「禅問答」を通して仏教(禅宗)の教えを解説する。

"仏教は教え自体が「問い」でもある”(P.236)とあるとおり、禅僧の一方向の教義だけではなく、読む者に考えることを求める。時には禅僧と一般人の立場が代わっているようにも見え、気付けば対話の中に入り込んでいるような錯覚を覚える。

読み解くと、いかに個を他との関係から見つめるかという、アドラーと同じ考えに落ち着く。
・自分が自分ではない何かとの関係から作られることを「縁起」という、仏教の最重要教説だ。(P.146)
・自分ではない何かを「非己」と呼び、「非己」を受容して関係を編み出していく運動様式こそが「自己」なのだ(P.147)
読書脳 ぼくの深読み300冊の記録読書脳 ぼくの深読み300冊の記録
立花 隆

文藝春秋 2013-12-09
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立花 隆氏の書評本は初めて読んだが、本の選択眼にただただ唸らされる。政治、時事、歴史、経済、事件、エロス、対象とする本の分野も半端ない。気付けば、amazonのカートが何冊も増えている。。。

石田英敬(東大図書館副館長)との対談も面白い。電子書籍など新たな技術に対して、本は、図書館はどうあるべきか、なるか。バーチャル図書館、ソーシャルリーディングなどなど、その先見性と想像力に唸らされる。

読書好きならいろんな意味で興奮を覚える1冊。
神道とは何か - 神と仏の日本史 (中公新書)神道とは何か - 神と仏の日本史 (中公新書)
伊藤 聡

中央公論新社 2012-04-24
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身近な存在でありながら中身をよく知らない神道、少しでも知識を深められればと手に取る。結論から言うと、本書はなかなか、取っつきにくく、新書でさらっと表面的な知識を得ようとした目論見は崩された。

神道は、仏教やキリスト教など他の宗教と異なり明文化された教典がないので、歴史から探っていくしかない。一方、明治維新による神仏分離・廃仏毀釈までは神道は仏教と融合した文化を形成しており、仏教とも深い関係がある。事細かく歴史を紐解いているのだが、如何せん古語調であったりと取っつきにくく、初心者を寄せ付けない。

池上彰と考える、仏教って何ですか?池上彰と考える、仏教って何ですか?
池上彰

飛鳥新社 2012-07-19
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葬儀・法事で身近にありながら、無宗教と言われる通りあまり深く考える機会の少ない仏教。本書は前半と後半に分かれ、前半は仏教の歴史から意味、教えまで、分かりやすく解説する。また、そこを読むと宗教仏教や檀家制度、他力本願が主となる鎌倉仏教など、日本独自の発展をしてきたことがわかり、後半では、よりオリジナルに近い上座部仏教、チベットの僧やダライ・ラマとの対談が掲載されている。

本書で最も突き刺さったのは、"仏教は心理学"という一言。あぁ、なるほど、三毒や煩悩といった、どうして心が乱れ、どう心を整えるか、という教えが多いのも頷ける。

全体的に池上氏の著書だけあり非常に分かりやすい。個人的には、以下の点を理解できたことが有益だった。
・日本では戦争や災害で人々の心を救った、鎌倉仏教が独自の役割を担って発展した。

・江戸時代に、キリスト教を排除するため、各家庭に寺院と結びつける檀家制度、寺院のヒエラルキーができあがった。

とくに前者は、なぜ日蓮宗、浄土宗、浄土真宗など他力本願(本書ではこの記載はないが)の考えが日本の主となったかはっきりする。また、平民の心を救うため、輪廻転生の考えからは相容れなかった葬儀に踏み込むことで、日本では葬式=仏教の考えが定着したことも興味深い。一方、鎌倉時代の仏教界の人々は人々を救うという明確な目的があって変節してきたことが感動すら覚える。一方、現代はどうか。法事にちらっと来て聞くモノが理解しないお経を唱えるだけ、本書でもさらっと指摘があるが救いを求める人々がオウムなど新興宗教に流れていた(る)状況など、いまの葬式仏教の意義はなんだろうかと考えさせられる。

後半は、チベット僧やダライ・ラマとの対談を載せているが、ここは評価が分かれるところ。科学に見識あるダライ・ラマ氏とのことだが、100%安全でない原発は減らすか停める、太陽光発電に変えていくなど、理想論や科学的でない(原発の電力は太陽光で代替できない)発言など、本書の主旨からずれていて興ざめする。
イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)
内藤 正典

筑摩書房 2012-08-06
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キリスト教の文化圏である西欧でも政教分離が今では当然となっている中、無宗教がほとんどの日本では宗教が密接に政治と絡むイスラムの世界(注:イスラムでも政教分離の国はある)は理解が難しいところ。本書はイスラムの歴史と共にそうした世界観を、さらにはイスラムから見た西洋圏を知ることができた。

アラブの春としてエジプト、シリア等の民主化運動を西側のメディアは総じて賞賛するが、その先の事、具体的には民族・宗派による対立を想定していることは少ない(自分は本書を読むまでまったく考えが及ばなかった)。中東の民主化というのが西洋の考えの押しつけであるか、また難しいか、思い知らされる。

著者は中立・客観的、というよりはかなりイスラム世界寄りの発言をされていて、その世界観を知らなかった者にとっては自分のように違和感をもったり、あるいは否定的な考え方を持つ者もいるかもしれない。事実、amazonの書評では批判的な意見もあった。しかし、メディア含め日本で手に入るほとんどの情報がキリスト・西洋の考え方である中、アジテーションを目的とするのでなければ、こうした異論を知ることも世界観が広げるために必要と感じた。
憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)
阿川 尚之

PHP研究所 2004-10
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下巻では、南北戦争後、現代(ブッシュJr.1期目)までを扱う。デュープロセス化、ニューディールと第2次大戦による大統領の権限強化がありながらも、法治国家としての合衆国最高裁の変貌や地位確立が非常に分かりやすい。争点では人種差別や人権、今日では保守派と進歩派の対立要素でもある中絶問題など、アメリカが分かれ、議論してきた点が、また判事の任命を巡る政治的な駆け引きなど、上巻のコメントの繰り返しとなるが、憲法を切り口にアメリカを追う視点がユニークかつ斬新で面白い。以下に、気になった点を列挙する。

南北戦争を経ても20世紀半ばまで(主に黒人に対する)人種差別が残ったのが、ポピュリズムの影響、すなわち鉄道資本に対する農民層の不満が募り、政治的発言を増加させた。彼ら貧しい白人と労働者として虐げられている黒人の連合を恐れた裕福な白人層が、それぞれを離反させるために人種の差異を強調する作戦にでた。(P.82)

下院議員は10年ごとの国勢調査に基づき、各州に配分する。しかし、選挙区の設定は、各州の議会が決める。19世紀末から20世紀にかけて都市化が進むと、1票の格差が生じるようになった。例えばカリフォルニアでは、98対1まで広がった。(P.260) 
→州毎に2名割り当てる上院は当然のこととして、アメリカで1票の格差は問題にならないと理解していたが、これは誤りであると認識させられる。

その他、保守派(キリスト教・自由)と進歩派(科学など先進的・連邦集約型)の違いなども、種々の凡例より理解が深まった。少しオーバーだが、アメリカを知る上で欠かせない1冊(上巻含めて2冊)であると感じた。
イスラム教入門 (岩波新書)イスラム教入門 (岩波新書)
中村 広治郎

岩波書店 1998-01-20
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「入門」とあるが、池上氏の「大人も子どももわかるイスラム世界の「大疑問」 (講談社プラスアルファ新書)」と比べるとより歴史やユダヤ教・キリスト教との関係など、ある程度の知識を要するものの、より深い内容であった(そもそも、池上氏の著書と比較するのが間違いかも知れないが。。。)

歴史、教えや行い---即ち六信五行()、分派の違い、法的規範や政治との関係、原理主義との関係など、幅広く、主観なく描かれていて、教養としての知識は得られるのではないだろうか。
イスラム法として政治にも入り込んでいることがあるから、例えば女性の扱いなど、時代の変化にそぐわなくなってきていたり、あるいは過激派原理主義のような問題も出るけれど、同じイスラム教でも国によって全く異なっていてそれは一部でしかないこと、それが理解できるだけでも、本書の価値はある。
「常識」としての保守主義 (新潮新書)「常識」としての保守主義 (新潮新書)
櫻田 淳

新潮社 2012-01-17
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「保守主義」とは何か。政治のニュースでは数多く目にする言葉だが、意外にも答えにくいのではないだろうか。本書は自民党の機関誌に連載されていた内容だが、「保守主義」とは何かを非常に分かりやすく解説されている。

そもそも保守主義とは、エドマンド・バークという英国の政治家がフランス革命を前にして著した「フランス革命の省察」に端を発するという。旧いものを守る思想と理解していたが、そうではないと一蹴される。右翼やタカ派ともイコールではない。もちろん、左翼とも相容れない。特定の国や人種を排除する姿勢、ナショナリズムとも違う。伝統を尊びつつ、柔軟かつ大胆に新しいものを取り入れ、中庸を美徳とする。

後半ではレーガン、吉田栄作、ドゴール、チャーチルなど偉人達を紹介すると共に、保守主義の拠り所は歴史により違うこと、しかしながら、その中でも保守主義の普遍的な本質に迫る。こうしてみると、今の日本の保守主義の政治家は、保守主義で無い方も見受けられてくる。

興味深かったのが、「草食系男子の脆さ(P.60)」で、草食系男子の出現を国家の衰退の兆しとした高坂正堯(まさたか)著「文明が衰亡するとき」に出てくるヴェネチアの歴史を紹介している。即ち、人々がリスクを取って何事かをなそうとする精神が減退することで、国自体も衰亡する。正に今の日本を示しているようだ。