教養: 2011年12月 Archives

放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのか
放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのかウェード・アリソン 峯村利哉

徳間書店 2011-07-29
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フクシマ2011を受けて追記・翻訳された、放射能を考えさせられる1冊。
放射能の安全基準は100ミリシーベルトで必要十分であり、過度な恐怖や感情的・盲目的な意見に一石を投じる。放射線の影響を語る際には必ず線形か否か、即ちどんな微量でも悪影響を受けるか否かが問題となるが、本書では線形理論をばっさり切り捨てる。ヒロシマ・ナガサキの長期にわたる観察結果、チェルノブイリ、種々の実権を通じて、閾値以下の放射線は人間の修復効果により無害(一定量以下の出血が問題ないように)であることを示す。リスクとしてはたばこなどその他の要因を除外すべきでないこと、原子力業務従事者の平均寿命がその他の労働者よりも高いことなど、当然のことから興味深い話まで。その上で、過度な恐怖心から原発のコスト高、火力発電の公害を問題視する。

この理論は何がなんでも原発反対派には受け入れがたいものであり、議論にすらなり得ないだろう。しかし、3.11の後にメガソーラーを掲げた孫ソフトバンク社長や県内200万世帯のソーラー発電普及を公約に謳った岩神奈川県知事が最近になってトーンダウンや公約撤回したことからも分かるように、感情的で千慮欠いた思考は何も問題を解決しないことを改めて思い知らされる。

尚、本書はヒロシマ・ナガサキの追跡調査やチェルノブイリなどの事例をどこまで著者が確認したのか、各種記述についても逆に原子力のデメリットに盲目的と感じ得ないが、今(これから)のエネルギーを考える上で読む価値ある1冊。

P.S. P.189にある最新のアレバEPR(ヨーロッパ加圧水炉)ではメルトダウンした炉心融解捕獲区画が設けられているように、福島のメルトダウンも原発=悪というより、古い(50年も前の)設計の問題であることを多くの人も知るべきであろう。でなければ、何が安全で何が危険か判断できない。