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単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)
池谷 裕二

講談社 2013-09-05
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自分の意志はどこまで自由か。本書では高校生への講義という形で、脳の様々な仕組みを解説する。

物事を判断する前に脳は決断している、好みは操作される、がんばれと応援されることで握力測定の値は上がる、などなど、意志とは無関係に記憶や体の反応が変化することを示されると、そもそも自分の言動はどこまで自らの意志によるものか、懐疑的になる。

全体的にユーモラスに書かれており、興味本位で読んでも楽しめる。
習慣の力 The Power of Habit習慣の力 The Power of Habit
チャールズ・デュヒッグ 渡会 圭子

講談社 2013-04-26
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人は自分で考え決断しているようでも、ほとんどは習慣で決まっているという。逆に言えば、悪い習慣を良い習慣に変えて行くことが重要であり、その仕組みを解説する。

その仕組みとは、習慣は”きっかけ”→”ルーチン”→”報酬”というループがあり、変えられるのはルーチンだけということ。例えば職場でとる間食を止めようとした時、まずはどんなとき(きっかけ)、なに(報酬)を求めるかを考え抜く。例では、疲れる前の決まった時間に(きっかけ)、いきぬき(報酬)できるよう同僚との会話する時間を設けて間食を止められたという(毎日定時に話しかけられる同僚はどうなんだ・・・ってのは突っ込んではいけないのだろうか)。

後半では、データを分析して本人の好みのクーポンを案内をする研究が紹介される。本人が気付く前に妊娠していることを把握するのは気持ち悪い、と思ったら、そこは抜かりない。実際に売りたい(売れる)商品のクーポン以外に、全く関係ないクーポンを混ぜたりするというのはさすが。

偶然消臭剤ができたので、当初はにおい消しとして出す物の全然売れず。”習慣”に狙いをつけ、掃除後に香りつけるためにスプレーするもの、としたら爆発的に売れるようになったというファブリーズの話から、野菜売り場が右回りの理由(10年以上前にスーパーで働いていた時、なぜ野菜売り場から始まって右回りの導線に売り場を作るのか疑問だったことが、やっと理解できた)、大きなイベントの時に習慣が変わるのでメーカーは出産時に父親にも贈り物をする(p266。自身、子供が生まれたとき病院からプレゼントされるものの中に、ミルクなど赤ちゃん用品の他にジレットの髭剃りが入っていた理由を理解)など身近なこと(の裏にある狙い)がいろいろわかって面白い。
グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)
ケネス ポメランツ スティーヴン トピック 福田 邦夫

筑摩書房 2013-08-22
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大航海時代に始まり、世界が1つになり始めたときに何が起きたか。本書はタイトルに「経済」とあるが、単に商品(金、銀、砂糖、綿、etc.)の移動だけでなく、需要の発生した背景や、供給側の実情まで深掘りした歴史書である。

株式会社の始まりと習った東インド会社や西インド会社がほとんど国営企業だった実態から、奴隷商だったロビンソン・クルーソーなど、表層的な歴史の授業からは、異なった認識を持っていたことに気付かされる。西欧の需要を満たすため始まった新大陸の制覇や植民地政策、奴隷制度は、まさにグローバル化の負の側面であるが、その細かく描画された実態は想像を絶する(当時の奴隷は、1日5000kcalの食事をとっても痩せていったという事実は、ただただ驚愕するばかり)。

今日では普段何気なく口にする砂糖やコーヒー、じゃがいもといったものが、どのように生まれてきたか、当時の人々の意識(特に、じゃがいもは、高地でも育ち高カロリーだったため重宝されたが、当初は奴隷食だったため市民からは敬遠されたとのこと)を知ることで、また違った認識を持つだろう。

歴史から今日に至る身の回りの品まで繋がったストーリーとなっており、非常に興味深い1冊だった。

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?
ダニエル・カーネマン 友野典男(解説)

早川書房 2012-11-22
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人間の思考を直感(システム1)と推論(システム2)でモデル化して解説した上巻に続き、下巻では錯覚やバイアスを多数解説する。

著者がノーベル経済学賞をとったプロスペクト理論や、多数掲載される例題はどこかで見聞きしたことも多いことからも、人間の非合理性を追求してきた第一人者たる故だろう。純粋に楽しめるだけでなく、判断を誤った際のリスクが大きい投資や高額商品の購入時など、活用場面は多い。
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?
ダニエル・カーネマン 友野典男(解説)

早川書房 2012-11-22
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「考える」ということを根底から覆させられる、智のコペルニクス的な1冊。
人間の脳の仕組みを、直感的で素早い判断を行えるシステム1と、理論的で時間をかけて決断するシステム2に分けて解説する。

システム2を使って思考し、経験を積んだ分野はシステム1を使用する・・・と想定したが、本書ではいかにシステム1が騙され、ご判断を下すか、システム2がいかにシステム1の判断を鵜呑みにしてサボるか、すなわち人の思考がいい加減であることを様々な実験結果で証明する。種々の実験結果も面白いが、それらを読んでいるうちに、あるいは読み終えたときに、自分の思考が信じられなくなっているだろう。なかなかボリュームあるが、下巻も楽しみである。
化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)
佐藤 健太郎

技術評論社 2008-06-25
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子供の頃、化学物質は害、自然の物がいいと言われてきた。たぶん、これが世間一般の感覚だろう。事実、食べ物で人口調味料・添加物が含んでいる物と含んでいない物があったとき、敢えて前者を取る人は皆無だろう。しかし、そもそも化学物質とは何だろうか。自然界にも即効性のある毒物から、発ガン性物質さえある(※1)。また、農薬未使用の方が、アレルギーが起きやすいという話もある(※2)。化学物質の何を恐れ、そもそも何を知っているのか。

本書は、ダイオキシン、界面活性剤、着色料、保存料、DDT、アスピリン、、などなど薬品から食品添加物などさまざまな騒がれたもの・問題視されるものについて、表層的な問題と実態を考察する。そして、3つの重要な示唆を与えてくれる。

まず1つは、普段何気なく口にしているものでも毒となるものはたくさんあるということ。カフェインは5g、塩は200gとのこと。また、発ガン性という意味では着色料よりも、アルコールの方が高いとのこと。(P.94~96) そういえば、アメリカで水を大量に飲んだ人が水中毒で死亡した事故があったが、何かの物質が毒かどうかというのは量にも依存する(余談だが、これは放射線も同様だろう)。
次に、短絡的な思考(添加物=悪)は、得てしてマイナスになると言うこと。例えば添加物バッシングによって保存料(ソルビン酸)が嫌われると、保存料となのつかないグリシンや酢酸ナトリウムを用いるようになり、かつそれらは効果が弱いため大量に使うようになっている。(P.111)

最後に(これは化学物質うんぬんに限定されないが)リスクは比較する物、即ち1つの物で善悪決めるものではない。

冒頭で、仏教説話の「群盲象を撫でる」という教えが心に残る。

※1 例えば、HERPという発ガン性を評価・順位付けした以下のドキュメントでは、多数の天然物が掲載されている。
※2 近畿大学農学部講師の森山達哉氏らのグループが農薬使用よりも無農薬リンゴの方が「口腔アレルギー症候群」になりやすいことを発表している。
放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのか
放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのかウェード・アリソン 峯村利哉

徳間書店 2011-07-29
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フクシマ2011を受けて追記・翻訳された、放射能を考えさせられる1冊。
放射能の安全基準は100ミリシーベルトで必要十分であり、過度な恐怖や感情的・盲目的な意見に一石を投じる。放射線の影響を語る際には必ず線形か否か、即ちどんな微量でも悪影響を受けるか否かが問題となるが、本書では線形理論をばっさり切り捨てる。ヒロシマ・ナガサキの長期にわたる観察結果、チェルノブイリ、種々の実権を通じて、閾値以下の放射線は人間の修復効果により無害(一定量以下の出血が問題ないように)であることを示す。リスクとしてはたばこなどその他の要因を除外すべきでないこと、原子力業務従事者の平均寿命がその他の労働者よりも高いことなど、当然のことから興味深い話まで。その上で、過度な恐怖心から原発のコスト高、火力発電の公害を問題視する。

この理論は何がなんでも原発反対派には受け入れがたいものであり、議論にすらなり得ないだろう。しかし、3.11の後にメガソーラーを掲げた孫ソフトバンク社長や県内200万世帯のソーラー発電普及を公約に謳った岩神奈川県知事が最近になってトーンダウンや公約撤回したことからも分かるように、感情的で千慮欠いた思考は何も問題を解決しないことを改めて思い知らされる。

尚、本書はヒロシマ・ナガサキの追跡調査やチェルノブイリなどの事例をどこまで著者が確認したのか、各種記述についても逆に原子力のデメリットに盲目的と感じ得ないが、今(これから)のエネルギーを考える上で読む価値ある1冊。

P.S. P.189にある最新のアレバEPR(ヨーロッパ加圧水炉)ではメルトダウンした炉心融解捕獲区画が設けられているように、福島のメルトダウンも原発=悪というより、古い(50年も前の)設計の問題であることを多くの人も知るべきであろう。でなければ、何が安全で何が危険か判断できない。
ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)
ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)田沼 靖一

幻冬舎 2010-07
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「死」という永遠のテーマを、細胞レベルのメカニズムから生きるための「死」という観点で千慮されている。
細胞には自らを殺す自死(アポトーシス)というプログラムがあらかじめ組み込まれている。個々の細胞が個体全体を認識し、不要な細胞が自ら死んでいくことが個体を個体として統制しているという。オタマジャクシがかえるに生まれ変わるように。また、細胞の生まれ変わる回数は種によって予め決まっており、人間だと50~60回、すなわち人間の寿命を迎えることになる。死は進化のためにも必要なプロセスであり、細胞レベル、個体レベル、そして星、宇宙まで万物に誕生~寿命を迎える仕組みがそなわっていることは、神秘的ですらある。

さらに本書では、死から病気への治療法、すなわち生への展望を説く。ガン細胞は日々生まれて消滅していく中、消滅しない細胞がガン発症になるという。それら異常をきたしたガン細胞、あるいはHIVウィルスなどにアポトーシスを組み込むことでガンやAIDSの治療とすることの可能性に、ある種のロマンを感じる。
粘菌 その驚くべき知性 (PHPサイエンス・ワールド新書)
粘菌 その驚くべき知性 (PHPサイエンス・ワールド新書)中垣 俊之

PHP研究所 2010-04-21
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知性という言葉がどう控えめに見ても適用できないと思われる単細胞のアメーバ状生物、粘菌。本書は粘菌を対象とした実験から、その合理的行動、迷いといったものを示し、”知性”とは何かを問いかけてくる。
例えばえさを配置した迷路で最短経路を行く、苦手な物質を避けるなど、これらは感覚か、知性か。実験の中でも興味深いのが、関東の地図上で各都市にえさを配置し、東京(ちょうど新橋から電車が始まったように)の位置に粘菌を置いた実験。粘菌の伸びる経路は、まさにJRの路線図そのものになっている。

著者は不名誉(?)なイグ・ノーベル賞を受賞されたが(最も、著者は喜ばれている模様)、本書の内容はカーナビの経路設定や輸配送経路設定問題との考察など、実利にも富み奥深い。
図解・感覚器の進化 (ブルーバックス)
図解・感覚器の進化 (ブルーバックス)岩堀 修明

講談社 2011-01-21
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珍しい、感覚器全般の専門書。人間だけでなく蚊やミミズ、魚に鯨、モグラ・・・様々な動物から、さらに時代の流れによる進化、及び退化まで、感覚器を考察する。”進化の逆戻りはない”ことから、1度陸に上がってからまた海に戻った鯨やいるかはどう進化したか、ミミズはどう感じるか、コウモリが暗いところでも飛ぶ仕組み、などなど、これほどまで感覚器を網羅的に扱った本は希であり、興味深い。

残念なのは(本書の内容ではなく)、いくら知識として得ても、それら動物がどう探知しているかまでの理解で、どのように感じているかは決して理解できないこと。これは欲張りすぎだろうか。。。

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