歴史小説: 2010年11月 Archives

坂の上の雲〈7〉 (文春文庫)
坂の上の雲〈7〉 (文春文庫)司馬 遼太郎

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第七巻では、奉天会戦での辛勝、バルチック艦隊の日本到着までを収録。

奉天会戦では、かろうじてロシア側のミスが日本のそれよりも上回るなどから勝利(と呼べるか微妙だが)となるが、その中でも以下の記述は、大規模組織におけるリーダーシップの拙い対応として、印象深い。

ロシア軍はいたずらに弄命につかれ、さらには軍団のなかの小単位をあちこちひきぬいては予備隊にしたり、救援軍にしたりしたために建制秩序がくずれ、団隊長みずから自分はたれの命令をあおぐべきかどうかということがわからないほどに指揮系統が寸断されたり混乱したりして、組織が大いに弱体化した。(P.114)

その他、最初にバルチック艦隊を発見した日本人として紹介される宮古島の漁師達の逸話も興味深い。かれらは発見した事実を、漁で一仕事終えた後にもかかわらず、電信所がある石垣島まで15時間舟を漕ぎ、上陸地点から八重山郵便局まで30km走り、本島へ
「敵艦見ゆ」(P347)
と発信する。結果、哨戒艦信濃丸の後となり第一報とならなかったが、名もない人々の命がけな行動、さらにその後ずっと誰にも語らず日の目を見なかった点に、当時の日本人の必死な一面を垣間見る気がする。
坂の上の雲〈6〉 (文春文庫)
坂の上の雲〈6〉 (文春文庫)司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-02
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第六巻では、黒溝台、欧州での諜報、旅順を落とした乃木群の北進、そしてバルチック艦隊と日本海軍の状況を収録。資金も兵も枯渇しつつある日本、潤沢の軍力を持ちながら不穏な空気が立ちこめ革命前夜の模様を呈するロシア。全編、日本・ロシア通して様々な人物が登場するが、欧州で諜報活動を行う明石が興味深い。氏についての記述

-----あの明石に、それができたのか。
と、みなくびをひねり、明石のどこがそれをさせたのだろう、とふしぎがった。
結局は、かれの行動者としての資質にあるとしかおもえない。かれは目標をさだめると構想をたて、それにむかって思案と行動を偏執的に集中させるという性格をもっていたが、それがかれを成功させたにちがいなく、(P.202)

が思案するよりも行動することの重要性をよく示す。

その他、「ウラジオストック」の意味は感銘を受ける。

極東のウラジオストック(Vladivostok)という町の名は東を征服せよという意味であることを知ったが、運命のしだいではロシア帝国の東(vostok)が東京になるかもしれないということをおもった。(P.171)

坂の上の雲〈5〉 (文春文庫)
坂の上の雲〈5〉 (文春文庫)司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-02
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star二百三高地
star司馬ファンからの叱責覚悟で反証
star組織内部の《陰謀》が、組織を破滅させる。

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第五巻では、二〇三高地攻略、バルチック艦隊の回航、黒溝台の情勢を収録。日本の旅順要塞攻略方法、ロシアのバルチック艦隊では、戦略のまずさ・指揮官の欠点から、当時の日本・ロシアの国民性や国自体のシステムの長所・短所まで丹念に分析されている。

毎回の感想だが、物語としてのおもしろさはもちろんとし、歴史の中から独裁の欠点、寿命を迎えた国(システム)の脆弱性、普遍的な戦略の必要性・会得について考えさせられる。

特に、以下については「兵理」「戦史」「兵書」を様々な分野の類に読み替えられることに気付かされる。

真之は、兵理について、
「兵理というものはみずから会得すべきもので、筆舌をもって先人や先輩から教わるものではない」
(略)
あらゆる戦史を読んで研究せよ、読める限りの兵書を読むべきである、その上でみずから原理を抽出せよ、兵理というものは個々の研究して個々が会得するしか仕方がないものだ、といった。
(P.189)

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