歴史小説: 2010年12月 Archives

坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)
坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-02
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 ずっと気になってはいたが、手を付けずにいたのはシリーズ物故の長さが、後回しにしていた唯一の理由であった。が、いざふたを開けてみれば怒濤の物語(一応は小説だが、歴史でもあるので、物語と言っていいものか疑問だが)展開、気がつけばあっという間に読み終え、心には空虚のよう、まさに

頭の中の夜の闇が深く遠く、その中を蒸気機関車が黒い無数の貨車の列を引きずりつつ轟々と通り過ぎて行ったような感じだった。(P.358)

である。

 第八巻は日本海海戦を中心に、終戦までが描かれている。物語の結末は歴史が示すとおりであるが、特にこの八巻では歴史が示すさまざまな教訓が掲載され、心に強烈なメッセージを投げかけてくる。以下、一部羅列ながら引用まで。

「神明ははただ平素の鍛錬に努め戦はずしてすでに勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者よりただちにこれをうばふ。古人曰く、勝つて兜の緒を締めよ、と」(P.290、秋山真之文・東郷「告別の辞」で使用された「連合艦隊解散ノ辞」)

「教科書というものは、人間が作るもので、ところがいったんこれが採用されれば一つの権威になり、そのあとの代々の共感はこれに準拠してそれを踏襲するだけになります。いま教科書がないために教官達は頭脳のかぎりをつくして教えているわけであります。(以下、省略)」(P.327)

その戦後の最初の愚行は、官修の「日ロ戦史」においてすべて都合のわるいことは隠匿したことである。(中略)これによって国民は何事も知らされず、むしろ日本が神秘的な強国であるということを教えられるのみであり、小学校教育によってそのように信じさせられた世代が、やがては昭和陸軍の幹部になり、日露戦争当時の軍人とはまるでちがった質の人間群というか、ともかく凶暴としか言いようのない自己肥大の集団をつくって昭和日本の運命をとほうもない方角へひきずってゆくのである。(P.341)

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