本日の1冊: リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

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リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理
リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理ダン・ガードナー Dan Gardner 田淵 健太

早川書房 2009-05-22
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9.11の直後、飛行機を敬遠して自動車を使用し、交通事故で亡くなった人は統計的に1600人ともいわれる。客観的にリスク評価をできれば、より効果的な選択肢を選ぶはずだが、なぜ人はそのように行動しないのか。

本書によると、人は頭(理屈、計算)と腹(直観)の2つで判断し、しばし腹が優先されるという。数々の事例や心理学者などによる実験結果を紹介しつつ、その根拠を示していく。
頭と腹の関係では、例えば頭の介入で腹の推定を調整しない例を示す。

 次の問題を考えてみて欲しい。ボールとバットで合わせて1ドル10セントする。バットはボールよりも1ドル高い。ボールはいくらか?
 この問題を読んだほぼ全員がとっさに「10セント」と答える衝動に駆られるだろう。それはまさに正しいように見えるし、そう感じられる。しかし間違っている。(P.49)

なるほど、悔しいことに見事に引っかかってしまう。

人が蛇に嫌悪感を抱くように、大昔は直観が与える危機(=逃げろという信号)、また過ぎ去った危機を不必要に警戒して神経を消耗しない直観という仕組みはそれなりに効果があったようだ。しかし、そして、話は人がどのような時、リスクを過大評価するか。1970にリスク研究家スロビックは、大惨事、子供、未来、出所(人工か否か)など、18の要因をあげる。(P.102)

人工・自然では如何に人間が、自然=良 で人工=悪 といった公式を思い込んでいるか、考えさせられる。例えば、農薬(DDT)や水道・その他の発がん性物質と言われる類への批判は妥当か。前者は、マラリヤ等を減少、後者も人間への影響がほぼないものに抱く嫌悪感により、経済的損失、状況によっては間違った判断をしていると説く。例えば、野菜・果物はがんを抑えると言われているが、ほとんど影響のない発がん性物質や農薬を気にするあまり、使わないことで生産量の落ち込みや高騰、及びあるいは気にしてとらないことで、結果がんの確率が上がる例などを紹介する。(そもそも、がんの増加も人類が長生きするようになったためであり、それ自体は非常に喜ばしいことである。)

後半ではメディア・政治などによるリスク報道の偏り、過大解釈の例を説明。(ここでも、広い視点に立ち、メディア・政治のミスリーディングも仕組みの問題として挙げており、盲目的に避難することはしていない。)

今回、3.11の原発事故で原発恐怖や非難、急激な再生可能エネルギーへのシフトなど偏った主張がなぜ生まれるか、本書を読みなるほどと理解。今回の震災問題に限らず、どのようにリスクと向き合っていくべきか、人はどのように誤った判断をするのか、非常に参考になる。

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