Yuki: 2014年2月 Archives

博士の愛した数式 (新潮文庫)博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子

新潮社 2005-11-26
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記憶が80分しか持たない老数学者と、その世話をする家政婦。数学、偏屈な博士、世話。いったいどうして、退屈そうなテーマをここまで心温まる物語にできるのだろう。80分しか記憶が持たない人の話という前提知識から、如何に障害に苦労する話と想像していたが、全く違った。”障害は不便だけれど不幸ではない”という乙武氏の言葉通り、幸せな気持ちになれる1冊だった。

博士は事故にあって、80分までしか記憶を保持できなくなっていた。これまた癖のある博士の義姉の依頼で、派遣されることになったシングルマザーの家政婦は、毎日、初対面の扱いをうける苦労をしつつも、家政婦の子供も一緒に通い、3人で良い関係を築いていく。

博士の担当を外されるなどのハプニングはあるものの、基本、何気ない小話で構成される。相手を思いやり、考え、行動する、そうした日常の行為・身近なところに幸せはあると、教えてくれる。
ミニ書斎をつくろう (メディアファクトリー新書)ミニ書斎をつくろう (メディアファクトリー新書)
杉浦伝宗

メディアファクトリー 2013-10-29
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主張は芯が通って一貫していて、それでいて個々の小話が面白い。

芯となる主張とは、家の主が安らぎ、趣味などで楽しみ、元気になる場所が家に必要、そのためにどんな小さな家でも書斎を持とうということ。そして、そのための書斎の作り方をいろいろ紹介する。ただ出すだけではなく、自分がどんな環境が落ち着くか、篭もる派かオープンな環境がいいのか、など読者に問いかけることも忘れない。

著者は極小の住宅を多数、設計されてきたようで、1~2畳程度の書斎のアイデアは脱帽もの。それでいて、勝手に書斎作って家族の顰蹙を買わないように、なんていうジョークも忘れない。世のお父さん達は、読んでわくわくすることは間違いないだろう。
反省させると犯罪者になります (新潮新書)反省させると犯罪者になります (新潮新書)
岡本 茂樹

新潮社 2013-05-17
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出版社の意向だと思うが、新書はタイトルで釣ろうとして奇抜になる本が多いと感じる。そして、そういったタイトルの本は中身も一致している(=こちらが知らなかった斬新な主張をしている)ものと、ロジックがおかしかったり中身が違うなどがっかりな本に二分されるように思う。

本書は少しタイトルが言い過ぎと感じつつも、主張している内容は一般論と異なりつつも至極まっとうだった。

何か悪事を働いたとき、親や学校と同様に、刑務所でもまずは反省をさせるらしい。反省する態度をすることによるインセンティブが働くため、反省したフリが先に来て、考えが深まらないという。まずやるべきは、自分の気持ち・行いを認め、なぜそうするに至ったかを考えることで、本当の反省が出てくるという(なので、「反省させると・・・」というタイトルはひっかかるのだが)。

本書を読んで、2つ、思うところがあった。

まず1点目が、子供の教育場面。小生も子供時代、怒られることでまずは誤り方を考えていたと気付かされる。即ち、上べっつらしか考えていなかったので、また同じ事を繰り返す=同じ事を誤るのループがあった(そして誤ることだけが上達する)。自分が親になり、子供を叱って謝れば許したり満足していないか、本書を読んでより意識するようになった。

もう1つが、交通事故。日本では交通事故を起こして人を殺傷してしまうと、まず業務上過失傷害罪として犯罪者になり、これは鉄道・航空も同様である。アメリカが個人には刑事罰を課さず、原因を追及するのとは対照的である。私は日本人の多くが人の処罰・反省を第一に望み、真の原因究明まで思いが至らないことが多いと常々思っているので、言わば国民性だろうと推察する。

本書の言わんとすることは十分理解できるも、犯罪者の更生という点ではいまいちピンとこなかった(また、人によっては感情が先立ち拒否反応を示すだろう)。著者の専門だから仕方ないのだろうが、身近な例を持ち出した方が、より納得感があったと思う。
もう、怒らない (幻冬舎文庫)もう、怒らない (幻冬舎文庫)
小池 龍之介

幻冬舎 2012-01-14
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多数の著書の他、雑誌プレジデントなどでもコラムを書かれている小池 龍之介氏による、怒りのコントロール術。ここでいう怒りとは仏教用語であり、妬む、悔む、悲しい、虚しいなど、自分を傷つける負の感情全般を指す。

家族、職場、近所、見知らぬ人、、、他人に対して負のエネルギーを発生させることほど、無意味なことはない。分かっていても、そうした感情は自然と発生し、どんどんと増幅していくことはないだろうか。一方で、そうした感情を抑え込むことも、体に良くないし限界がある(だから、時には爆発したことがいいというような論調もあったりするのだろう)。本書では、そうした怒りを客観視して、無毒化していく技術を説く。

貪・瞋・癡(とん・じん・ち)など難しい仏教用語を使わずに三毒を解説していたり、一般の人を強く意識して書かれていて、読みやすい(逆に、仏教用語を知ろうとすると物足りないのだが)。
コンサルタントの道具箱コンサルタントの道具箱
ジェラルド・M・ワインバーグ 伊豆原 弓

日経BP社 2003-07-29
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SE向けの指南書として有名なワインバーグ氏だが、小生は初めて手に取った。

結論から言うと、SEだけでなく、コンサルタント・営業・その他、頭を使うほとんどの職種の人が読んで損はないだろう。分かりやすくインパクトある法則、例えば「ラズベリージャムの法則」のように名付けた法則に対し、具体例とともに解説し、指南や処世術を展開していく。

同様の”法則”本のように、1つ1つの法則が完結しているので、理解できないところや関係ないところは読み飛ばせば良い。心に残る法則が1つ・2つ見つかれば、本書を読む意義は十分満たす。
シャイロックの子供たち (文春文庫)シャイロックの子供たち (文春文庫)
池井戸 潤

文藝春秋 2008-11-07
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結論から言うと、池井戸 潤氏の著作としては、少し異質な感じがするストーリーだった。同氏の本のストーリーは、半沢直樹シリーズのように明確な主人公を中心にしたものと、複数の人物・小話が展開し、それらがだんだん絡み合って1つのストーリーを構成するパターンに分かれ、本書は後述のパターンにあたる。このパターンは、1つ1つの話が、どのように繋がるのか想像するのが楽しかったりする。

本書に出てくる人物にヒーローはいない。皆何かしらの欠点を持っているし、良い点もある。そうしたどこにでもありそうな中、最初は小さな、そしてそれがだんだんと大きな犯罪に連鎖していく様は、怖くもある。皆”普通”に暮らし、努力しているのだが、どこかで踏み外しそうに、あるいは踏み外してしまう。

いままでの同氏の著作は、比較的、ハッピーエンドになる読了感の良いものが多かったのだが、本書は普通とは何か、何が幸せか、何を努力すべきか、考えさせられる。


新訳 ヒトラーとは何か新訳 ヒトラーとは何か
セバスチャン ハフナー Sebastian Haffner

草思社 2013-01-17
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有名でありながら、実はヒトラーのことをあまり知らなかったと痛感される。その内容は、衝撃的であった。

売れない画家だったオーストリア人のヒトラー(ドイツ人でない!)は、そして政治家になるも、前半は冴えない人生を送っていた。それが突然ドイツを掌握し、破竹の勢いでヨーロッパを支配していくも、あっという間に崩壊していく。その起伏の激しい人生の中で、なぜユダヤ人や障害者などを虐殺しようとしたのか。

そのWWⅡでドイツの負けが確定的となったときにヒトラーのとった行動、絶望的な戦に挑み市民を巻き添えにするのは一見、不合理である。しかし、彼の野望をなしえなかったドイツ人への復讐と考えると、非常に合理的になる。その 狂った思考は当然ながら、そうした人物に当時のドイツ国民が信頼を寄せていたことに、改めて恐怖を覚える(多数決や人民の声というのが、必ずしも正しくないのだと)。

本日の1冊: 勉強上手

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勉強上手勉強上手
成毛 眞

幻冬舎 2012-06-28
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資格やセミナーといった決まったレール・他人の意見を聞くことの無意味さを指摘し、如何に自分が集中できる、興味もてることを極めることが重要であるとを説く。この人だから許されるのだろう、巷の著名人の本をばっさばっさ批判する。

後半からは、著者の具体的な考え・テクニックがいろいろ詰まっていて楽しい。この辺は人にもよると思うが、TVは1.3倍速でみる、付箋を本にどんどん貼っていく、Dropboxにネタをどんどん蓄える、などなど自分もやっていることが多数出ていて、思わずうんうんうなずいてしまう。

勉強という名前こそタイトルに含まれているが、そこまで堅苦しい内容ではなく、情報の仕入れ方・蓄え方程度で読み始めた方がすっと入りそう。
神道とは何か - 神と仏の日本史 (中公新書)神道とは何か - 神と仏の日本史 (中公新書)
伊藤 聡

中央公論新社 2012-04-24
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身近な存在でありながら中身をよく知らない神道、少しでも知識を深められればと手に取る。結論から言うと、本書はなかなか、取っつきにくく、新書でさらっと表面的な知識を得ようとした目論見は崩された。

神道は、仏教やキリスト教など他の宗教と異なり明文化された教典がないので、歴史から探っていくしかない。一方、明治維新による神仏分離・廃仏毀釈までは神道は仏教と融合した文化を形成しており、仏教とも深い関係がある。事細かく歴史を紐解いているのだが、如何せん古語調であったりと取っつきにくく、初心者を寄せ付けない。