Yuki: 2014年1月 Archives

ロスジェネの逆襲ロスジェネの逆襲
池井戸 潤

ダイヤモンド社 2012-06-29
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前作「オレたち花のバブル組」の最後に子会社出向となった半沢直樹が、子会社で扱っていた買収案件が親会社に横取りされる。「やられたら倍返し」の如く、親会社に宣戦布告するも、状況は厳しい。何とか打開策を見つけたと思ったのもつかの間、半沢は人事上の脅しを掛けられ・・・。

時代のせいにして卑屈になっていた子会社の若手プロパー社員、一癖も蓋癖もある買収をしようとした社長夫婦、本書でも魅力的な役者が揃い、単純だけれど一筋縄に行かないストーリー展開は、相変わらず。

絶体絶命の状況下で、親会社(半沢直樹の出向元)の役員会議に乗り込むラストシーンは圧巻でさえある。ラストは・・・ここでは書くのは控えよう。あえて言うなら、「おれたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」3つで1つの作品とだけ記しておこう(続編もありうるが、前作は明らかに本作の伏線だった)。
成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか
ポール・タフ Paul Tough 高山真由美

英治出版 2013-12-19
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貧困・教育問題を専門に扱ってきた著者による、最新のアメリカ教育理論で、NYタイムズや成毛氏が絶賛していたので読んでみる。

成功というと大げさだが、何が子供の人生の充実度を決定付けるかという点について、考えさせられる1冊。最近の研究によると知識や知性よりも、非認知的スキルと呼ばれる性格面の能力、具体的には粘り強さや自制心、好奇心、誠実さ(勤勉さ)、ものごとをやり抜く力が大きく影響することが分かってきている。これは、『本日の1冊: 親と子の「伝える技術」』でも同じ事を言っていたが、こちらはさらに踏み込んで書かれていて、実際に行われてきたプログラムとその結果を紹介する。

読んでまず頭に浮かんだのが、同様に好奇心や集中力・持続性・楽観性・リスクテイキングが人生のキーファクターであると説く Planned Happenstance Theory だった。つまり、教育・育児だけでなく、大人にも非認知的スキルは有効と言えよう。

日本の教育は未だ主観・経験に基づく点が多い反面、システマティックに体系立てられているアメリカの教育論もウォッチしていく必要性を強く感じた(アメリカは、昔は黒人の知能が低いという常識があり、人種による知能を検証してきたため、今では客観・体系的に整理されているのだろう)。
オレたち花のバブル組オレたち花のバブル組
池井戸 潤

文藝春秋 2008-06-13
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「半沢直樹」シリーズ第2弾。前作で主人公の要望通り、東京中央銀行東京本店営業第二部次長に昇進した半沢直樹。老舗ホテル「伊勢島ホテル」の再建を託された直後、巨額の投資損失が発覚する。さらに、金融庁検査が行われることとなり、ホテルの経営再建計画次第では融資責任まで問われることに・・・
ダイ・ハードの銀行版か、と思うほどピンチが次から次へとやってくる半沢直樹。前作同様にそれらを切り抜けていく様も面白いが、本作では主人公の同期で、かつて病気で休職したことが原因となり第一線を外れて「タミヤ電機」に出向した近藤の話も濃い。「タミヤ電機」が社長・部下であるはずの課長がぐるとなり粉飾や帳簿の改ざんをしていたのに気付いた近藤、冴えなかった人物が、プライドをかけ、復活しながら戦っていく様は、思わず応援したくなる。
前作、あるいは今まで読んだ氏の著作と異なるのが、ラスト。

※以下、ネタバレあり。



近藤が、自身の栄転と引き替えに告発文書を相手に渡すところや、半沢直樹も痛み分けという形でそれなりの処分を受けるなど、意外性も。
日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)
吉本 佳生

講談社 2013-04-18
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タイトルから、世間を賑わすアベノミクスの(正社員向け)賃上げ論と推察していたが、別物であった。また、取れるところ(大企業・金持ち)から取って弱者を保護しろという社会主義的な思想とも異なる。
本書では、富が偏っていること、具体的には日本は企業規模や年齢、男女格差が諸外国の先進国と比べて高いことを示し、さらに余剰金はお金持ちよりも余裕のない人の方がより多くのお金を使うことから、中小企業・非正規・女性・若者といった属性こそ、もっと評価されるべきと論じられている。

白書を始め、多くの資料を緻密に分析しながら、斬新な分析と分かりやすい解説に、引き込まれる。分析内容は多岐にわたるのだが、個人的には以下の3点が非常に興味深かった。

・国の金融緩和がデフレを生んだ

2000年代に行った金融緩和は、資源バブルを発生させ、結果、原価を転嫁できない中小企業の賃下げを生み、デフレになったというもの。金融緩和が国内で完結するなら、確かに意味があったのだろう。しかし、金が各国を漂流するグローバルの現代社会においては、意図しない実害を生むというのはとても納得できる。今の金融緩和の結末を同読むか、示唆に富む。


・国が貧困を作っている

憲法第二十五条 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」にあるとおり、社会保障が国家の重要な役割の1つであることには誰も疑いはないだろう。問題はそれをどこまで行うか、過保護と適切な保護のバランスだと思っていた。しかし、本書では所得の再分配後に相対的貧困率が拡大していることを指摘している。つまり、国が、貧しい人をより貧しくしているという。都知事選でも高齢者に優しい社会、高齢者の医療費を無料にと言うように、本来は豊か(だが政治力のある)高齢者ばかりを向いている結果、国家が社会保障としての役割を果たさなくなっていることは、衝撃的でさえある。


・サービス業(非正規・女性)に目を向けるべき

ここには2つ、論点がある。まず1点目は、これからの経済発展を考えたときに、物が充足した現代で物質的豊かさを求めるには限界なので、サービス産業を伸ばすべきということ。そして次に2点目だが、そのサービス産業に従事する人達(その多くが非正規、女性)の収入が低いので、これを抜本的に上げるべきという主張(日本ではサービス=無料という間違った認識もあるせいだろう)。



2番目、3番目のポイントは、1/27放映のクローズアップ現代「あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~」と本質的に同じである。

著書の「日本経済の奇妙な常識」と同様、非常に素晴らしい、必読の書だ。


オレたちバブル入行組オレたちバブル入行組
池井戸 潤

文藝春秋 2004-12-10
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今更ながら、半沢直樹シリーズを手に取る。本書は第1弾、物語はバブル期に入行した主人公「半沢直樹」、時は流れ、中間管理職となり融資課長を務める。上司の強引な指示で融資した5億円が回収不能となり、その責任を一方的に押しつけられるが・・・。

池井戸 潤氏の作品全てに言えることだが、テンポ良い爽快なストーリーに、時間を忘れて吸い込まれていく。個性の強いキャラ立ちに、真の通った主人公。最後は正義が勝つという単純明快な展開ながら、推理的小説的な要素や、どんでん返しなど、読む者を飽きさせない。早く次が読みたくなる、最高の娯楽小説だ。
なぜ、間違えたのか?なぜ、間違えたのか?
ロルフ・ドベリ 中村智子

サンマーク出版 2013-09-10
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人間が犯す間違いの心理的なパターンを、52の”落とし穴”として、1つずつショート・ストーリーとともに解説する。著者はナシーム・ニコラス・タレブと知人というだけあり(?)、ブラック・スワンの話も随所に出てくる。

”落とし穴”には、サンクコストのように比較的よく知られたものもあるし、平均回帰などファスト&スローなど他書で読んできたものも多かった。本書は新たな理論を出すわけではなく、方々で証明されてきたものを集めたに過ぎない故、amazonのレビューも低評価なのだろう。

本書の価値は、シンプルに整理されていることだろう。ブラックスワンやファスト&スローがいくら素晴らしくても、あれだけの文量をおいそれと読み返せない。何度も読み返し、あるいは参照できてこそ、”落とし穴”を意識して回避できる。もし深く知りたいときには、文末に参考文献が載せられれているので、そちらを読めばいい。
仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
内田 和成

東洋経済新報社 2006-03-31
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問題解決技法として、コンサルの世界では定石である仮説アプローチを解説する。

なぜ仮説を持つべきか、なぜそれが有益なのか。信じられないが、著名な著者自身、初期はそうした考えを持たず苦労したという。苦労して会得したからこそ、また生産性の高い、問題に対処するスピードの速い同僚や若手を数多く見てきたからこそ、仮説の重要性を説く部分に重みを感じる。

一方、例示するサンプルが経営課題に集中しており、これから仮説思考を学ぶという人間に対してはあまりピンとこないだろう。読者のターゲットがどこにあるのか、分からなかった。後者が目的なら、 『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』の方が適していると感じる。
諦める力 〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉諦める力 〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉
為末 大

プレジデント社 2013-05-30
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スポーツ選手が、しかも世界陸上で2度のメダルを獲得した著者が”諦める”を肯定することに驚きを覚えるも、読んで納得。これだけ戦略的に考え抜いたからこそ、結果も残せたのだろうと理解した。

諦めるの反語は諦めない、努力するだろうか。一見、"努力"とは美しく肯定的に扱われることがほとんどだが、時には思考停止でもあり得る。
よく日本人は与えられたルールの下で努力することは得意だが、ルール自体を変える、自分が勝てるフィールドを作るのは苦手と言われるが、これも”諦める力"の不足、いや、思考停止での"努力"が原因なのだろう。

読む前は単にスポーツ選手の書いた1冊という認識だったが、為末元選手の思慮深さ、また仏教など多方面についての知の深さに感銘を受けると共に、人生の指南書と言ってもいいくらいの良書であった。
親と子の「伝える技術」親と子の「伝える技術」
三谷 宏治

実務教育出版 2013-05-14
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どこかで読んだことあると思えばそのはず、本書は「一瞬で大切なことを伝える技術」の親子版とのこと。前書で書かれていた具体的・抽象的×事象・心象の2×2のフレームワーク(中身は割愛)を、曖昧・ハッキリ×現象・気持ちと言葉を置き換えていたり、寸劇(?)の挿絵写真も多用されており、著者がさらにわかりやすさを追求しているのがわかる。

ほんのさわり程度ではあるが、ハーバード教育大学院のVisible thinking(思考の可視化)の紹介をするなど、ただ軽いだけでなく理論も学べる。

理論というと難しく考えてしまいそうだが、ほめた回数を数える、ルールを紙に貼る、など具体的で簡単なアクションに落とし込んでいて、さらに子供のように”できた”シールまで付録としてある。

近年の非行や若年鬱は、親や周りの大人が過干渉であることが多いというのも興味深い(P.148~)。子育ての目的・目標は何かと答えられる人はどれくらいいるのだろう。つい目先を見てあれもこれも気にしてしまいがちだが、長期的な視点、高い視野を持つように意識したいと、自戒した1冊だった。

以下、読後メモ。
バーバラ・フレドクリソンはポジティブ心理学において、人はポジティブさがネガティブさの3倍を超えると成功すると発見した。但し、ネガティブさも必須。ゼロだと暴走して失敗する。(P.102)