Yuki: 2012年12月 Archives

ポーターの『競争の戦略』を使いこなすための23問ポーターの『競争の戦略』を使いこなすための23問
牧田 幸裕

東洋経済新報社 2012-04-20
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タイトルにあるポーターの「競争の戦略」をはじめ、理論やフレームワークを学んでも結果を出せる事業戦略に結びつかないのか。本書はそんな問いに対し、理論と実際の結びつけ方が理解していないことを原因とし、さらに日本企業ができていない差別化・集中の重要性を説く。

なぜ事業戦略がうまくいかないか考えた後は、ラーメン二郎、牛丼、ハンバーガー、京大のアメフト部、、、など種々の優良な事例を基に読者へ問いかける。

本書は簡易な内容ではあるが、文面から何かを得ると言うよりも、そうした問いから考え、新たな気づきを得る、読む時間の何倍も考える時間に充てることで、有益な1冊となるだろう。
成功する男のファッションの秘訣60――9割の人が間違ったスーツを着ている (講談社の実用BOOK)成功する男のファッションの秘訣60――9割の人が間違ったスーツを着ている (講談社の実用BOOK)
宮崎 俊一

講談社 2011-12-16
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スーツの試着に始まり、善し悪しの見方・選び方、ワードローブのルール、小物含めた着こなし方、靴含めたメンテ方法と、まさにスーツのコンサル本と言えよう1冊。文面でだけでなく、カラー写真を挿入して説明されていて、漠然とスーツの選んでいた身としては、非常に参考になった(最も、スーツを購入したのは10年以上前、かつ2着しか購入したこと無いのでそもそもの知識が軽薄かもしれない)。

スーツをいたわるためには極力クリーニングは行わずブラッシングを良くすること、と今まで実践してきてうなずいてみたり、クールビズがファッションを崩す・ヨーロッパで半袖シャツはビジネスにあり得ないなど、理想は分かるけれど年々温暖化が進み、かつ高湿の日本でどうなのか、と疑問を抱いてみたり、楽しく読めた。
憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)
阿川 尚之

PHP研究所 2004-10
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下巻では、南北戦争後、現代(ブッシュJr.1期目)までを扱う。デュープロセス化、ニューディールと第2次大戦による大統領の権限強化がありながらも、法治国家としての合衆国最高裁の変貌や地位確立が非常に分かりやすい。争点では人種差別や人権、今日では保守派と進歩派の対立要素でもある中絶問題など、アメリカが分かれ、議論してきた点が、また判事の任命を巡る政治的な駆け引きなど、上巻のコメントの繰り返しとなるが、憲法を切り口にアメリカを追う視点がユニークかつ斬新で面白い。以下に、気になった点を列挙する。

南北戦争を経ても20世紀半ばまで(主に黒人に対する)人種差別が残ったのが、ポピュリズムの影響、すなわち鉄道資本に対する農民層の不満が募り、政治的発言を増加させた。彼ら貧しい白人と労働者として虐げられている黒人の連合を恐れた裕福な白人層が、それぞれを離反させるために人種の差異を強調する作戦にでた。(P.82)

下院議員は10年ごとの国勢調査に基づき、各州に配分する。しかし、選挙区の設定は、各州の議会が決める。19世紀末から20世紀にかけて都市化が進むと、1票の格差が生じるようになった。例えばカリフォルニアでは、98対1まで広がった。(P.260) 
→州毎に2名割り当てる上院は当然のこととして、アメリカで1票の格差は問題にならないと理解していたが、これは誤りであると認識させられる。

その他、保守派(キリスト教・自由)と進歩派(科学など先進的・連邦集約型)の違いなども、種々の凡例より理解が深まった。少しオーバーだが、アメリカを知る上で欠かせない1冊(上巻含めて2冊)であると感じた。
地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト
スチュアート ブランド Stewart Brand

英治出版 2011-06-15
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都市問題、原子力、遺伝子組み換えなど、個々の事象で議論されがちな問題を、タイトルの通り地球規模の視点で論点を提示している。特に、原子力については、資源、廃棄物など、まさに今、偏狭した考え方が充満している日本で真剣に熟知し、考えるべきポイントが記されている。

また、遺伝子組み替え問題についても、ヨーロッパなどは不確定事項に対する安全原則によって禁止されているが、今まで何も問題ないこと、そもそも自然界では遺伝子変異は普通に起こっていること、そして重要な問題として、遺伝子操作によって効率よく大量の食物を安全(農薬など、別の害を減らし)に生産し、多くの人が飢餓による死から救われているという事実を無視していることから、如何に感情的な判断が不合理な事実を選んでいるか、思い知らされる(この辺は、原子力の科学的知見やNPT条約など過去の経緯を知らずに、安直な脱・卒原発を掲げる日本の政治家に対しても、同様といえる)。

余談だが、裏表紙にスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学・卒業スピーチで有名な「Stay hungry, Stay foolish」が記されている。てっきり、スティーブ・ジョブズは信仰する禅、即ち曹洞宗の祖、洞山禅師の言葉「愚の如く、魯の如し」から持ってきたとばかり思っていたが、どうもこちらを賞賛し、引用したようだ。ここら辺は少し、探求してみたい。
FBI美術捜査官―奪われた名画を追えFBI美術捜査官―奪われた名画を追え
ロバート・K. ウィットマン ジョン シフマン Robert K. Wittman

柏書房 2011-06
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盗難美術品を専門にする著者による潜入捜査の回顧録。著者の経歴も興味深く、日本人の母を持ち、30代までセールスマンとして成功を収めていたのを投げ捨てて子供時代のあこがれのFBIへ転職、その後FBIでもほとんどいない美術操作専門の捜査官になった。

強盗・盗難により奪われた美術品を、潜入捜査により取り返すと共に売買を企む犯人を逮捕に導く。得てして暴露本にありがちな、過度な誇張が無い。史的な品々を取り戻す達成感を得たり、潜入捜査の過程で犯人らと交流を重ねることで友情が芽生えたりと、人間臭さが含まれているからだろうか。淡々としているけれどそこには確かに現場の雰囲気が感じ取れて読む者を魅了する。
憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書)憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書)
阿川 尚之

PHP研究所 2004-09-16
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いろいろ歴史書はあるけれど、本書は憲法からアメリカの成り立ちを追うという視点がユニーク。内容も堅苦しくなく、非常に面白い。

上巻では建国から南北戦争(序章として、ブッシュJr.の大統領戦を含む)までを範囲としている。アメリカ憲法は200年、ほとんど形を変えることなく現存することからも、非常に考えられ、作られているのがわかる。その生い立ちを読み解くと、なぜアメリカが弁護士社会なのか、なぜ得票率で勝っても結果で負ける大統領選が許されるのか、なぜ上院議員は1票の格差が70倍もあるのに問題とならないのか、などアメリカを理解できる、オススメの1冊だった。

印象に残ったのが、1819年3月6日のマカラック対メリーランド事件の判決で、マーシャル判事が連邦政府を「人民の政府であり、人民によって権限を与えられた政府であり、人民のために権限を直接行使する政府」と称している。そう、リンカーンの演説で有名な「人民の人民による人民のための政府」の基となる趣旨が、その約40年前にあったのである。(P.127)
イスラム教入門 (岩波新書)イスラム教入門 (岩波新書)
中村 広治郎

岩波書店 1998-01-20
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「入門」とあるが、池上氏の「大人も子どももわかるイスラム世界の「大疑問」 (講談社プラスアルファ新書)」と比べるとより歴史やユダヤ教・キリスト教との関係など、ある程度の知識を要するものの、より深い内容であった(そもそも、池上氏の著書と比較するのが間違いかも知れないが。。。)

歴史、教えや行い---即ち六信五行()、分派の違い、法的規範や政治との関係、原理主義との関係など、幅広く、主観なく描かれていて、教養としての知識は得られるのではないだろうか。
イスラム法として政治にも入り込んでいることがあるから、例えば女性の扱いなど、時代の変化にそぐわなくなってきていたり、あるいは過激派原理主義のような問題も出るけれど、同じイスラム教でも国によって全く異なっていてそれは一部でしかないこと、それが理解できるだけでも、本書の価値はある。