Yuki: 2012年10月 Archives

大人も子どももわかるイスラム世界の「大疑問」 (講談社プラスアルファ新書)大人も子どももわかるイスラム世界の「大疑問」 (講談社プラスアルファ新書)
池上 彰

講談社 2002-04-18
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タリバンなど過激派原理主義のイメージの強いイスラム教だが(アメリカでも、9.11の後、イスラム教や中東の人々が不当に差別されたり、逮捕や弾圧受けたりした)、そもそも全人類の6人に1人がイスラム教、さらにアメリカでも増加しているイスラム教の本質を知る必要を感じていた。

本書はイスラム教に先立ち、その元となるキリスト教、さらにキリスト教の元となるユダヤ教の歴史・要点を記す。そして肝心のイスラム教は、歴史から教義、イスラム教文化、中東の戦争から過激派原理主義の思想やタリバンの生い立ちまで、幅広く、分かりやすく書かれている。これを一通り読んだだけで、イスラム教徒は○○と単純に表せない、ましてやイスラム=テロなどといった思想が如何に短絡的か、理解できる。また、十字軍もキリスト教世界から見ると討伐戦争だが、イスラム教から見れば、当時文化的に劣っていたキリスト教の世界が起こした野蛮戦争だという、180度違った解釈も興味深い。

どの宗教でもそうだが、多くの人を惹き付ける魅力は、何かしらある。例えばイスラム教では、神の前では皆平等、富めるものは収入の2.5%を貧しいものに施す義務があるなど、現代でも通用する考え方は多い。一方、女性は守る存在なので父親か夫が保護書という古い考え方、現世の行いが良く天国に行けたものは、素晴らしい酒が飲め、幾人もの美女を妻にし、小性が周りの世話をするといった、欲望というか煩悩のような考え方があるのも事実。

池上彰氏の書物は初めて手にしたが、TV同様にポイントを分かりやすく書かれていた。タイトルのイスラム教はもとより、元のキリスト教やユダヤ教、そして神道(恥ずかしながら、「しんどう」ではなく「しんとう」と読むと知らなかった)と仏教にも言及してあり、宗教全般の入門書としても、多くの人に必読の1冊である。


備忘録:
コーラン:預言者ムハンマドが聞いた、神の言葉を記した書
ハディース:コーランを理解するための参考書

「困った人」の説得術「困った人」の説得術
出口 知史 伊東 明

日本経済新聞出版社 2011-08-09
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”困った人”を評論家クレーマー、職人クレーマー、思考停止クレーマー、現実逃避クレーマー、近視眼クレーマーに分類し、それぞれについて対策を述べている。一見、それぞれ適当に名付けていそうだけれどうまく分類されており、多数がやっかいと思う人は上記のいずれかに属するのではないだろうか。著者はコンサルティングファームに属していたとなるほど、その分類の納得感(MECE)に頷く。

それぞれに対する分析も的を得ていて、チャレンジしてみよう(そんな人達に遭遇しないのが1番なのだが)と思わせるとともに、そうした人達を如何に持ち上げるか書かれているのを見て、これら困った人はその人の一部の側面でしかないと気付かされる。対立が全ての解決策ではなく、如何にお互い向上するか。と同時に、自分自身、こうした”困った人”の顔がでていないか、ちょっと冷静になってみる。


化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)
佐藤 健太郎

技術評論社 2008-06-25
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子供の頃、化学物質は害、自然の物がいいと言われてきた。たぶん、これが世間一般の感覚だろう。事実、食べ物で人口調味料・添加物が含んでいる物と含んでいない物があったとき、敢えて前者を取る人は皆無だろう。しかし、そもそも化学物質とは何だろうか。自然界にも即効性のある毒物から、発ガン性物質さえある(※1)。また、農薬未使用の方が、アレルギーが起きやすいという話もある(※2)。化学物質の何を恐れ、そもそも何を知っているのか。

本書は、ダイオキシン、界面活性剤、着色料、保存料、DDT、アスピリン、、などなど薬品から食品添加物などさまざまな騒がれたもの・問題視されるものについて、表層的な問題と実態を考察する。そして、3つの重要な示唆を与えてくれる。

まず1つは、普段何気なく口にしているものでも毒となるものはたくさんあるということ。カフェインは5g、塩は200gとのこと。また、発ガン性という意味では着色料よりも、アルコールの方が高いとのこと。(P.94~96) そういえば、アメリカで水を大量に飲んだ人が水中毒で死亡した事故があったが、何かの物質が毒かどうかというのは量にも依存する(余談だが、これは放射線も同様だろう)。
次に、短絡的な思考(添加物=悪)は、得てしてマイナスになると言うこと。例えば添加物バッシングによって保存料(ソルビン酸)が嫌われると、保存料となのつかないグリシンや酢酸ナトリウムを用いるようになり、かつそれらは効果が弱いため大量に使うようになっている。(P.111)

最後に(これは化学物質うんぬんに限定されないが)リスクは比較する物、即ち1つの物で善悪決めるものではない。

冒頭で、仏教説話の「群盲象を撫でる」という教えが心に残る。

※1 例えば、HERPという発ガン性を評価・順位付けした以下のドキュメントでは、多数の天然物が掲載されている。
※2 近畿大学農学部講師の森山達哉氏らのグループが農薬使用よりも無農薬リンゴの方が「口腔アレルギー症候群」になりやすいことを発表している。
竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)竜馬がゆく〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1998-09-10
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2010年に大河ドラマに取り上げられた坂本竜馬(龍馬)。司馬遼太郎の著名作の1つ、やっと(?)手に取ってみる。

全8巻の内、第1巻は生まれから、千葉道場で腕を上げるまでを描く。歴史的には、黒船の来航があり、尊皇攘夷やら何やら騒がしくなる。
土佐藩の次男坊で生まれた竜馬、剣の腕よりそこそこ認められる存在ではあるが、大胆かつ自由な生き様故、変わり者という方がしっくり来る。歴史上の人物から泥棒まで、登場人物それぞれに魅力あり、読む者を惹きつける表現力やストーリー性はさすが。
週刊朝日が、橋下氏のDNAを暴くとして特集記事を掲載している。

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彼は今や公人だから、彼の主義・主張に対する異論や反論含めて、彼の性格形成の過去や環境を分析、明らかにするのはわかる。しかし、記事の内容は、彼の人格の根拠として、当人が記憶にない彼の祖父や父のこと、それも彼らが部落出身で、父はやくざだと挙げているとのこと。

ここで、日本で行われていた血縁や出自による差別の知識が如何に自分が不足していたかハッとさせられた。
部落、いわゆるエタ・非人に対する知識は漫画「カムイ伝」+小学校か中学校の歴史でちらっと学んだ程度だった。
しかし、調べてみると結婚・就職などで差別が昭和の時代まで行われており、さらに同和政策が失効する2002年まで政治的な問題でもあったと知る。

と同時に、どれだけ世間一般に知られているのだろうかと疑問に思う。
今回の週刊朝日の表紙(上記、デジタル書籍では消えているが)では、「(橋下をハシモトではなく)ハシシタ」と書いている。これが、エタ・非人が橋の下などに多く住んでいたことから、その人たちを暗示しているとどれだけの人が気付くのだろう(この記事の悪意性にどれだけの人が気付くのだろう)。

さらに、今回の記事に対して、言論の自由を盾に同調する国会議員・記者すらいる。
しかし、彼らは総じて以下の2点で大きな間違いを犯していると思うが、どう考えているのだろう。

・血縁や出自による人格遺伝・形成は科学的に間違っている
・(恥ずべき)差別の歴史や考え方を理解していない

特に後者は、言論の自由の前に、絶対に把握しておくべき前提知識であろう。
例えば、言論の自由などと言ってナチスのユダヤ人迫害の正当性を唱えれば、一発アウトなのは自明ではないか。

面白半分でこうした雑誌が飛ぶように売れ、中には同調・感化される人がいる恐ろしさに、(自分自身も含め)無知の悪害を痛感させられる。

2012/11/24 追記
さすがに反響も大きかったようで、この連載は1回で打ち切りとなった。また、11/30号では、謝罪とともに第三者機関の見解、記事の作者・佐野愼一氏のコメントを10ページにわたり掲載した。
不動産投資「やっていい人、悪い人」──年収200万円時代に備える (講談社プラスアルファ新書)不動産投資「やっていい人、悪い人」──年収200万円時代に備える (講談社プラスアルファ新書)
長嶋 修

講談社 2010-05-21
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ロバート・キヨサキのお金に働いてもらう考え方を引用して、不動産投資の魅力を語るが、いきなり冒頭で万人向けではないと言い切る。ニーズの把握、資金調達、物件探しのホーム・インスペクションからメンテナンス。さらに、自分が何を実現したいか、それらを全て考慮・対応できて初めて、不動産というものが魅力的になると諭す。いい面、悪い面含め、必要な情報や考え方を幅広くまとめてあり、不動産始める気がなくても、それがどういったものかと理解する上で良書であった。
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)
松浦 正浩

筑摩書房 2010-04-07
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冒頭で、交渉術と交渉学をはっきり区別している。そう、本書は心理的なかけひきなどのテクニックやコミュニケーションの仕方ではなく、あくまでも「学問」としての交渉を扱う。
まず交渉の時に、「立場」:表面的な主張と「利害」:最も交渉したい対象を意識することを重要視する。ここで、AとBという2人が居たとき、それぞれ「立場」と「利害」は以下だったりする。

     立場          利害
A  窓を開けて欲しい  換気したい
B  窓を閉めたい     寒い

こうして書けば分かりやすいが、実際、立場だけで議論し、平行線となることは多々ある(自省も込めて)。その上で、実際交渉するに辺りBATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)やZOPA(Zone Of Possible Agreement)の概念を説明、後半では多数のステークホルダー(利害関係者)による交渉、(都市計画が専門だけあり)地域の住民協議や政治・社会問題の応用まで、幅広い。空気を読んでの決断、声の大きい人の主張に流れる、反論する人の出現で議論のひっくり返りといった問題への対処の仕方はどれも論理的で、逆にこれらを知らずに交渉することが如何に稚拙か思い知らされる。
「学」というがとても分かりやすく、奥深い、良書である。
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】
アトゥール ガワンデ 吉田 竜

晋遊舎 2011-06-18
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”人間は間違いを起こす生き物である”  誰でも一度は聞いたことあるフレーズだが、ではどのようにHE(ヒューマン・エラー)をなくすか、体系立てて整理していないところは意外に少ない。医療の世界でも、医者の裁量で行われることが多いため、ちょっとしたミスが多発しているという。著者はTIMEの最も影響力ある100人(2010年)に選出された医師で、WHOで医療ミスを防ぐためのチェックリスト作成を綴っている。

構成は自身の失態も含めた医療ミスの実態、WHOから依頼されてチェックリスト作成に至る経緯、チェックリストの事例として建築業界と航空業界の調査、そして医療へチェックリストの適用でなっている。ストーリーとしても秀逸で、読み物としても面白いが、特に興味深かったのが事例の建築業界と航空業界。

まず建築業界の話だが、スケジュール自体がチェックリストとして機能しているという。遅れを可視化し、一度問題が発生すれば関係者で協議して是正する仕組みができあがっているというのには目から鱗である。長年、WBS(Work Breakdown Structure)の類やスケジュールを扱っているが、チェックリストという発想はなかったので、非常に新鮮だった。
そしてもう1つが航空業界として、パイロットが扱うチェックリスト。医療も瞬時に必要最低限のことを確認するという点が同じため、こちらにより重点がおかれているのだが(実際、チェックリストと言われてイメージするのもこちらだろう)、”良いチェックリスト”という発想が興味深い。つまり、いかに面倒くさくさせないため、無駄を省くか(その削り方が、詳細は本書を参照いただくとして、熟慮の賜と思い知らされる)、その上で使う人に気づきを促せるか。そうした観点で幾度となく、改訂がなされる。さらに、運行会社などによって、同じ観点で細部がアレンジされることが推奨される。飛行機のチェックリストを見て、当初はなぜ、ものによって同じ機体でも微妙に違うのか、なぜ、書かれていない手順があるのか疑問だったが、これを読んで非常にすっきりした。また、著者がチェックリストの効能を知るために飛行機のフライトシミュレータを体験する話、2009年1月14日に発生したUSエアウェイズ1549便のNYハドソン川不時着の話など、どれも非常に興味深い。

最後は飛行機の話に終始してしまったが、一見単調なチェックリストの奥深さを、これほど面白く読める本書は素晴らしい。
入社1年目の教科書入社1年目の教科書
岩瀬 大輔

ダイヤモンド社 2011-05-20
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ライフネット生命の副社長を勤める岩瀬大輔氏の著書。最近は10年目の社員向けの新刊も出ているが、こちらはタイトル通り新入社員向けに、仕事の3つの原則と50の提言をまとめている。この手の本は書店(amazon)に数多とあるが、それでもこの本を選ぶ理由は2つある。
まず1つに、著者である岩瀬氏の考え、魅力をかいま見られること。2つめに、氏の著書故だが、仕事に偏重しつつも、英語の勉強、新聞の読み方からスーツの合わせ方、お金の話など、大凡新人の時に考慮すべき事が網羅されて書かれており、どれも非常に分かりやすい。

タイトルは入社1年目とあるが、10年選手でも20年選手でも十分堪能できると思う。例えば、仕事の面は、自分の考えが正しいことの裏付けとして使える。仕事以外の話では、資格はそのものの価値よりも刺激を受けるペースメーカーとして使う(P.127~)という生き様的な考えに頷いてみたり、新聞は2紙以上、紙で読む、著者は日経と朝日とフィナンシャルタイムズを購読している(P.129~)に「紙の必要性あるか、そもそも前出の3紙とったら月いくらなるんだろう」と首をかしげてみたり。きっと、引き込まれている自分に気付くことだろう。
民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論
大前 研一

小学館 2010-07-14
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民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論 (小学館文庫)民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論 (小学館文庫)
大前 研一

小学館 2012-09-06
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アダム・スミスの”神の見えざる手”をもじって(?)、今の世の中が個々の意向の集合によって動くこと(だからケインズ理論的な、計画的コントロールは時代遅れと言いたいのだろう)、だから如何に自由に動ける環境を作ることで国を豊かにするかが力説される。また、最後は如何に個人が幸せになるかで終わるところが、こう書いても国は変わらないだろうという氏の諦めが隠れ見える。

大まかな構成の中は、非常にミクロな話になるのが評価の分かれどころになりそう。ユニクロ・guなどデフレに対する「モンクレール」ジャケット、商品大量時代の楽天に対する超一品.comなど、単に氏のお気に入りを今後の進むべき道として断言するのはどうかと思う(正直両者とも知らなかったので有益だったし、考えの1つとして出すのは嫌いではないが、ユニクロや大量の商品を選べることのメリットの方を好む)。

本日の1冊: 頭の体操 BEST

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頭の体操 BEST頭の体操 BEST
多湖 輝

光文社 2009-08-20
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Nintendo DSのレイトン教授シリーズ監修でも有名な著者の、1200万部のベストセラーとなった頭の体操シリーズのベスト集、100問を掲載している。amazonの高評価もあり、期待しすぎたのかもしれないが、”厳選した問題”というには少し疑問。面白い問題とそうでない問題、ロジックがしっかりしている問題から、ひねり問題の中には論理的に破綻(その解答が許されるなら、いくらでも出てくるような問題)まで玉石混在と感じた。異なる時代や問題から収集しているからだろうか。

酷評してしまったが、ちょっと気分転換に、隙間時間に、楽しめる1冊であることは確かである。

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