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日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書)
吉本 佳生

講談社 2013-04-18
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タイトルから、世間を賑わすアベノミクスの(正社員向け)賃上げ論と推察していたが、別物であった。また、取れるところ(大企業・金持ち)から取って弱者を保護しろという社会主義的な思想とも異なる。
本書では、富が偏っていること、具体的には日本は企業規模や年齢、男女格差が諸外国の先進国と比べて高いことを示し、さらに余剰金はお金持ちよりも余裕のない人の方がより多くのお金を使うことから、中小企業・非正規・女性・若者といった属性こそ、もっと評価されるべきと論じられている。

白書を始め、多くの資料を緻密に分析しながら、斬新な分析と分かりやすい解説に、引き込まれる。分析内容は多岐にわたるのだが、個人的には以下の3点が非常に興味深かった。

・国の金融緩和がデフレを生んだ

2000年代に行った金融緩和は、資源バブルを発生させ、結果、原価を転嫁できない中小企業の賃下げを生み、デフレになったというもの。金融緩和が国内で完結するなら、確かに意味があったのだろう。しかし、金が各国を漂流するグローバルの現代社会においては、意図しない実害を生むというのはとても納得できる。今の金融緩和の結末を同読むか、示唆に富む。


・国が貧困を作っている

憲法第二十五条 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」にあるとおり、社会保障が国家の重要な役割の1つであることには誰も疑いはないだろう。問題はそれをどこまで行うか、過保護と適切な保護のバランスだと思っていた。しかし、本書では所得の再分配後に相対的貧困率が拡大していることを指摘している。つまり、国が、貧しい人をより貧しくしているという。都知事選でも高齢者に優しい社会、高齢者の医療費を無料にと言うように、本来は豊か(だが政治力のある)高齢者ばかりを向いている結果、国家が社会保障としての役割を果たさなくなっていることは、衝撃的でさえある。


・サービス業(非正規・女性)に目を向けるべき

ここには2つ、論点がある。まず1点目は、これからの経済発展を考えたときに、物が充足した現代で物質的豊かさを求めるには限界なので、サービス産業を伸ばすべきということ。そして次に2点目だが、そのサービス産業に従事する人達(その多くが非正規、女性)の収入が低いので、これを抜本的に上げるべきという主張(日本ではサービス=無料という間違った認識もあるせいだろう)。



2番目、3番目のポイントは、1/27放映のクローズアップ現代「あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~」と本質的に同じである。

著書の「日本経済の奇妙な常識」と同様、非常に素晴らしい、必読の書だ。


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