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エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)
石井 彰

NHK出版 2011-07-07
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3.11以降、原発を停止し、円安による燃料高も増し、じわじわと電気代にも影響が出始めた昨今。結論から言うと、本書はエネルギー問題を考えるのに最適な1冊だった。
本書を読み、エネルギー問題をあまり理解していなかったことを思い知らされる。また、他の文献・報道含め、エネルギー問題と電気の問題を混同していることを気付かされる。前書きの「そもそもエネルギー問題はなぜ重要なのか」という命題に答えられる人がどれだけいるだろうか。様々な示唆を与えてくれた1冊である。

人類が火を使うようになったころから、牛馬、木炭、石炭、石油、そして原子力・・・人類の発展には、必ずエネルギーのイノベーションがあった。逆に、エネルギーが退化するということは、単に不便な生活になるのではなく、文明が崩壊することを意味する。そもそも、電気も一次エネルギーの1/4相当でしかないため、節電だ電気料金だと、電気だけを考えていてもエネルギー問題に十分対処できない。
エネルギー源も、再生エネルギーが主力になり得ない根拠、原発の弊害、石炭の環境汚染、等々、まんべんなく評価する。

一方、早急な論法で結論ありきに感じるところがある。
最終的な解決策として、副題にもあるが天然ガスに帰着している。サハリンからのパイプライン計画が独占の崩壊を恐れた日本の電力会社の反対で頓挫したことなどは、もっと世間一般に知らされるべきであろう事実も含めた提言は好感が持てる。しかし、原発の評価がメルトダウンを起こさない最新の原子炉など触れずに危険の一言ですます点が気になった。
また、現在の日本では契約上の問題から、すぐにシェールガス革命の恩恵(低コスト)を得ることができない。 事故の賠償がある東電以外でも、原発を長期停めるコスト高を資産売却や人件費圧縮でまかなうことが限界に来ているため、環境汚染の著しい石炭火力に頼らざるを得なくなってきている。
こうしたことから、天然ガスで云々というのは、少なくとも直近の問題を考える上では違う。
(繰り返しとなるがエネルギー問題を考える上でオススメの1冊であることには違いない。)


以下、備忘録(引用を改変して掲載)。

・ハーバード大学の自然人類学者リチャード・ランガムの仮説によると、人類は加熱することで、消化が良くなることで摂取エネルギーが上がり、結果、消化器系の減少とエネルギー消費の高い脳が肥大化し、発展したとのこと(P.38)。
・1952年のロンドンでは、石炭起源のスモッグによって、喘息等の呼吸器疾患が深刻になり、1日で4000人が死亡する大スモッグ事件が発生している(P.69)。
・ドイツが第二次大戦で独ソ不可侵条約を破って対ソ開戦に踏み切ったのも、日本同様に安価な石油不足が原因(P.138)。
・シェールガス革命の3つの技術とは、①地表から数千メートル垂直に掘った坑井を90度水平方向に屈曲させて水平掘削する(水平坑井)。②ガスの同通路網を作る多段階水圧破砕。③掘削状況を把握する微細地震探査。(P.170)
・石油や原子力のようなエネルギー源も食料も人間活動を支える同じエネルギー源である。しかし、歴史的な実績としては、日本でも世界でも、殆どの飢饉、餓死者は、食料を全く生産していない大都市ではなく、食糧自給率が100%を超えている農村で発生しているのである。例えば、日本の近世の三大飢饉である享保、天明、天保の大飢饉では、それぞれ東北を中心に30万人から100万人の餓死者が発生したが、江戸では極めて少数、それも江戸に来た東北の農民であった(P.198)。