社会: 2009年10月 Archives

 門が閉まっていれば入らなかった―大阪小学校内児童殺傷事件の公判で、加害者はこう述べたという。従来、犯罪対策は、犯罪者の人格や劣悪な境遇(家庭・学校・会社など)に犯罪の原因を求め、それを除去しようとすることが中心であった。しかしながら、このような処遇プログラムは結局再犯率を下げることができなった。こうした「原因追及」の呪縛を解き、犯罪の予防に新しい視点を与えるのが、「犯罪機会論」である。<Amazonより>

犯罪は「この場所」で起こる (光文社新書)
犯罪は「この場所」で起こる (光文社新書)
光文社 2005-08-17
売り上げランキング : 102726

おすすめ平均 star
star犯罪者心理をよく理解されている
starすこし
star「場所」だけが犯罪を起こすのか?−−犯罪は、脳と「場所」が起こす。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

 犯罪を原因(所謂マスコミなどで報道される、アニメオタク・派遣社員増加による格差等)は一見正しいようでありながら、因果関係が明確ではない。それよりも、犯罪が起こりにくい心理的な場所・仕組みを、という観点でNYの割れ窓理論(必ずしもこれだけで犯罪が減少したわけではない、というのが近年の説のようだが)からロンドンの防犯カメラ社会といった世界の事例紹介を含めて、犯罪の少ない社会はどのように作れば良いかを提起している。結論は、地域(Community)に帰結しているが、その中で興味深い内容は、地域の重要性を再認識した欧米の凶悪案税の犯罪率が増加しなくなったのに対し、日本では相変わらず増加しているという点。海外に「交番」が輸出されたように、かつて日本の専売特許のように言われていた「安全」が、日本を参考にした海外で効果あるのに日本では本書の指摘する視点での議論が少ないように感じた。

 最近日本でもメンター制度が普及し始めたが、その語源が古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」に登場する賢者メントールに由来する(P.197)というのは初めて知った。

 日本の経済と社会を覆う閉塞感の正体。相次ぐ食品企業の「不祥事」、メディアスクラム、年金記録「改ざん」問題、裁判員制度…コンプライアンス問題の第一人者が、あらゆる分野の問題に斬り込み再生への処方箋を示す。  Amazonより。

思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本 (講談社現代新書)
思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本 (講談社現代新書)
講談社 2009-02-19
売り上げランキング : 5863

おすすめ平均 star
star著者の思いが非常によく理解できます
star法令遵守の形式主義や、ダブルスタンダードに悩む方に
star考えるきっかけにはよい本

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

問題解決はおろか、原因追及せずに誰かを完膚無きまでに叩きつぶす、マスメディア(≒TV)。不二家の偽装報道、耐震偽装問題、企業年金の改ざんなどいくつかの事例を元に、報道されている内容への反論と真実、誤った報道による弊害を指摘する。普段、バイアスのかかった情報は鵜呑みにしていないつもりであるが、それでも不十分であり事実をほとんど知らないことに気付かされた。

但し、本書からも報道や社会に対するアンチテーゼを同じ土俵で争っているように受け取れるため、100%共感できない。マスメディアを通した一般人はそもそも全容を把握することは不可能なわけで、仮に可能だとしても直接関係ないことに自ら情報収集し、分析する人は皆無である。だからこそ、人々への働きかけだけでなく、影響力の大きいメディア(特にTV)側の仕組みを変える等の提言があっても良かった。

本書からは脱線するが、個人的にはTV報道に、よくある事実と推測(コメンテーター等)を混同した放送のあり方に疑問を感じると共に、流す情報が精度的にどの程度のレベルなのか(不確定要素を含む速報なのか、推測なのか、事実なのか)をきっちりと示して欲しいと感じる。

日本の全世帯の9割が加入し、「住宅についで、人生2番目に大きな買い物」といわれる生命保険。1000万円近い「買い物」をしているのに、加入者はあまりにその仕組みや内訳を知らされていないのではないか?
従来、藪の中だった「生命保険のカラクリ」を、ネット生保の副社長が明快、解き明かす。かけ捨ては損ではない、保険料はどこも同じではない、保険にボーナスはない、途中でやめたら損とは限らない、などなど、セイホの常識をくつがえし、生命保険会社の舞台裏から、「保険にかしこく入るための7か条」まで。
生命保険に入っている人、入ろうと考えている人、さらに保険業界で働く人、セイホに関わるすべての人たちのための「必読の書」。 <Amazonの内容紹介より>

 

生命保険のカラクリ (文春新書) 生命保険のカラクリ (文春新書)

文藝春秋 2009-10-17
売り上げランキング : 303
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

日本で 74年ぶりに誕生した独立系生保(大手生保の資本が入っていない)「ライフネット生命」の副社長が自ら書き下ろした生保業界の問題点。単なる既存生保の批判(=自社の宣伝)ではなく、問題の本質から、加入者が知っておくべき知識、そして生保業界の今後あるべき姿を示す。ここまで問題分析し、解があるからこそ生保を立ち上げられたのだろうとも思う。

また、著者の論理展開のすばらしさにも感服させられる。淡々と事実を述べるわけではなく、著者の感情にまかせて書かれたものでもなく、ストーリー展開が首尾一貫した本を久々に読んだ気がする。

●大麻取締法違反で逮捕された芸能人や文化人、スポーツ選手、大学生などを、テレビや新聞を中心としたマスメディアが袋だたきにする----同じような構図が、日々繰り返される。
しかし多くの日本人には、大麻がどういうものか、大麻取締法がどういう経緯で成立したか、そもそも痲薬とは何かという知識が決定的に欠けている。にもかかわらず、なぜ大麻というだけで思考停止状態に陥り、批判の大合唱になるのだろうか?

 

大麻ヒステリー (光文社新書)
大麻ヒステリー (光文社新書)
光文社 2009-06-17
売り上げランキング : 8613

おすすめ平均 star
starこれまでで最も判り易い論旨展開
star学校の図書館に5冊は置いて欲しい。
starこれ以上無いくらいわかりすい!素晴らしい一冊だと思います。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

マスコミ上では、大麻は覚醒剤と同レベルで扱われるが、そもそも大麻に含まれる麻薬成分(カンナビノール)の量ではなく、大麻そのもので判断する大麻取締法に対して、疑問を投げかけているのが本書である。例えばビールであればノンアルコールビール(本当にアルコール0%のものを含め)飲んで運転しただけで、飲酒運転で摘発されるようなものである。

そもそも大麻はなぜいけないのか?本書ではまず法の経緯を記している。そもそも日本では昔から大麻と関わってきた(吸引ではなく繊維として、何より日本の大麻には麻薬成分がほとんどないとのこと)が、戦後GHQの勧告で日本で禁止された。ではなぜGHQは日本に禁止を求めたのか?アメリカで違法だから。ではなぜアメリカで違法となったのか?この辺りに、政治的な理由が見えてくる。

時は禁酒法(本書ではその問題、制定の背景から廃止に致る経緯まで同様に記載しているが、ここでは割愛する)が廃止されて4年後の1937年、大麻課税法が制定された。その背景には禁酒法の取り締まりのために雇用された警察の雇用弁として、当時大量に流入していたヒスパニック系の排除に彼らの嗜好品であった大麻が格好のターゲットとなったという。但し、大麻自体は影響が科学的に証明されていないため、法律の名前が示すとおり使用には多額の税金を課すことで、実質使用を違法化したという、禁酒法同様、非常に曖昧なものである。

本書では、大麻とニコチン・ヘロイン・コカイン・アルコール・カフェインとの比較を、依存性・禁断性・耐性・切望性・陶酔性といった観点でも比較している(P.139 表5)が、なぜニコチン・アルコールがOKで、大麻がいけないのか見えない。また、「財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター」の大麻に関するページでは、”普通の社会生活を送れなくなる”とまで明記されているが、本書によるアメリカの各研究報告内容やWHOの報告では否定される。

オバマ大統領が使用経験を公然と述べたり、ダウンタウンの夜道では普通に売買されていたり、同じように禁止していてもアメリカ(前述の通りグレーではあるのだが)ではだいぶ日本の感覚と異なる。もちろん、法律がある以上、それを破るのは違法であることには変わりないし、罪を受けるのは当然である。但し、違法と言うだけで何も考えずに社会から追放しようと刑罰以上に糾弾する現状の報道・社会に、物事を考えずに行動する社会に、警笛を鳴らす本書は非常に興味深い1冊だった。

 今や、入社3年で3割の若者が会社を辞める時代になった。本書は、「内側から見た富士通」の著者である城繁幸氏が、若者世代を覆う「閉塞感の正体」を指し示す。

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)
光文社 2006-09-15
売り上げランキング : 22231

おすすめ平均 star
starこれから社会に出る人にこそ ぜひ読んで欲しい内容だと思った
star全てを年功序列のせいにしているだけの感情論
starねじれを上手く分析しています

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

”若年時代の苦労を後々に還元する年功序列が崩壊した昨今、昔のように1つの会社に縛られる意義もメリットも見いだせない”

”労組も、会社も、政治も、全ての苦渋を若者に押しつける”

筆者は上記を根拠に、「近頃の若者は根性がない」「若者はやる気がない」といった意見に対する反論を論理的に述べている。但し、後半からはそういった意見同様の偏見に近い、感情的に記述も目に付いた。例えば「年金が破綻しているのは誰の目に見ても事実。」(注:どう事実なのか証明なし)など。また、確かに労組は既得権益を守るために既存社員を守る(=若者の就職口を狭める)のは仕方ないし、会社が利益を優先するのも当然だが、政治でも高齢者優先は解せない的な意見もある。しかし、それも若年層の投票率が低いので当然とも言える。であれば、まずは政治を変えるために何ができるか、”選挙に行く”といったことから、意見の発信やネットワークの構成など、もう少し踏み込んだ内容が欲しかった。