社会: 2009年8月 Archives

 2006年夏から告発キャンペーン報道を展開し、新聞労連ジャーナリスト大賞優秀賞を受賞した朝日新聞取材チームが、格差社会の「労働悲劇」を描き尽くす渾身のルポ。 

偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)
偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)
朝日新聞社 2007-05-11
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請負社員の身分は夢や希望を持ちにくい。製造業へ派遣が解禁され、増えた派遣社員、そして本書で問題提起している偽装請負された人々の実態を生々しく記す。例えばキャノンの工場で働いていた大野には専業主婦の妻、3歳と1歳の子供がいる(P.74)。子供に何かさせてあげたい、、北海道の親が倒れたときにはどうするか。

確かに、不況・グローバル化が叫ばれた時代、企業にとっても流動的な体制をしく必要性があったのは理解できる。但し、今の日本では一度正社員以外の道を歩んできた人たちにとって、なかなかやり直しがきかない社会構造となっているのが問題だろう。本書でも語られているが、不況下や企業の存続時期にはある程度労働者にも苦渋を強いるのは仕方ないが、業績が回復した際には、企業は社会にも還元する必要があるのではないか。

最後に、経済学の用語「合成の誤謬」を紹介している(P.200)。ミクロでは正しくても、マクロでは必ずしも正しくない、という意味だが、非常に重い。経済学だけではなく、社会全般に当てはまる。

 

余談だが、グローバル化の波に飲まれる、という意味では中小の町工場(大企業と共に海外進出し、現地に技術供与だけして切り離された)の問題もある。