フィクション: 2014年2月 Archives

博士の愛した数式 (新潮文庫)博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子

新潮社 2005-11-26
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記憶が80分しか持たない老数学者と、その世話をする家政婦。数学、偏屈な博士、世話。いったいどうして、退屈そうなテーマをここまで心温まる物語にできるのだろう。80分しか記憶が持たない人の話という前提知識から、如何に障害に苦労する話と想像していたが、全く違った。”障害は不便だけれど不幸ではない”という乙武氏の言葉通り、幸せな気持ちになれる1冊だった。

博士は事故にあって、80分までしか記憶を保持できなくなっていた。これまた癖のある博士の義姉の依頼で、派遣されることになったシングルマザーの家政婦は、毎日、初対面の扱いをうける苦労をしつつも、家政婦の子供も一緒に通い、3人で良い関係を築いていく。

博士の担当を外されるなどのハプニングはあるものの、基本、何気ない小話で構成される。相手を思いやり、考え、行動する、そうした日常の行為・身近なところに幸せはあると、教えてくれる。
シャイロックの子供たち (文春文庫)シャイロックの子供たち (文春文庫)
池井戸 潤

文藝春秋 2008-11-07
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結論から言うと、池井戸 潤氏の著作としては、少し異質な感じがするストーリーだった。同氏の本のストーリーは、半沢直樹シリーズのように明確な主人公を中心にしたものと、複数の人物・小話が展開し、それらがだんだん絡み合って1つのストーリーを構成するパターンに分かれ、本書は後述のパターンにあたる。このパターンは、1つ1つの話が、どのように繋がるのか想像するのが楽しかったりする。

本書に出てくる人物にヒーローはいない。皆何かしらの欠点を持っているし、良い点もある。そうしたどこにでもありそうな中、最初は小さな、そしてそれがだんだんと大きな犯罪に連鎖していく様は、怖くもある。皆”普通”に暮らし、努力しているのだが、どこかで踏み外しそうに、あるいは踏み外してしまう。

いままでの同氏の著作は、比較的、ハッピーエンドになる読了感の良いものが多かったのだが、本書は普通とは何か、何が幸せか、何を努力すべきか、考えさせられる。