本: 2013年6月 Archives

日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)
吉本 佳生

講談社 2011-10-18
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なぜ格下げされたアメリカ国債の金利が下がるのか、1ドル80円は円高か、円高是正は正当か、日本のデフレはマクロ経済の根本問題だ、デフレ脱却のために金融緩和が必要、、、などなど、通常のニュースでさも当然のように論じられている様々な点について問題提起する。その1点1点が、わかりやすく図解されており、マクロ・グローバル経済の入門書的な位置づけとして、新聞の横に置いておきたくなるほど有益だった。

本書が刊行されたのは2011年10月だが、アベノミクスが騒がれているまさに今、その妥当性について考える参考書となろう。一部報道である1ドル80円を歴史的円高というのは間違いで、時代とともに通貨の価値がそれぞれ変動するので、それを補正する実質実効レートで図ると円安(P.165)である、そして、絶対値でみると明治の時代に円を導入したときは1ドル1円だったという点は個人的にトリビア的事実だった。
空飛ぶ広報室空飛ぶ広報室
有川 浩

幻冬舎 2012-07-27
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ドラマ化されたことで、一躍有名になった感のある1冊。Fighter(戦闘機乗り)を目指すも事故で道を絶たれ、航空自衛隊の広報官として新たな人生を歩む主人公の物語。

一見、不幸からの再起・・・と想像しそうだが、悲壮感はほとんどなく、話も広報官としての部分が大部分を占める。航空自衛隊の組織や仕組み、機体など前提知識がまるっきりなくても楽しめるほど、テンポ良い娯楽小説に仕上がっている。クサイほど濃いキャラ達にも、気付けば愛着を沸いてくる。

最後はドラマと異なるのだが・・・個人的には、純粋な娯楽物としてはドラマの方がすっきりしていていい気がする。
津波災害――減災社会を築く (岩波新書)津波災害――減災社会を築く (岩波新書)
河田 惠昭

岩波書店 2010-12-18
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本書は津波の恐ろしさと、その対策---副題の通り減災社会の築き方を論じる。

3.11までは、津波と高波と何が違うのか、具体的に理解していなかった。最も、これは私だけでなく世間一般の知識だっただろう。津波50cmと言われて逃げる人が非常に少ないのは、高波の感覚でいるからだろう。本書では通常の波と津波は何が違うのか、地球の裏側で起こった津波がなぜ減衰せずに反対側まで到達するのか、津波1mの時、堤防1mで防げるか、津波の進路は、などを物理的に解説する(少し、専門的でちょっと難解ではあるが)。

一方、対策としては堤防や高台、避難所といったハード面の他、ハザードマップの確認や訓練など、住民の意識向上や有事の際の心構え、対応といったソフト面を重視しているのが印象的である。本書でも絶賛している釜石の防波堤(総工費1215億円、住民1人辺り300万円かけて建築!)ですら、完璧でなかったのは3.11の結果が物語る通り、最終的には人間、それも自助、即ち行政だけではなく個々が考えるべきなのだろう。

最後に、本書が発行されたのは2010年12月。もし、少しでも多くの人に読まれていたら、と考えざるを得ない。
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?
ダニエル・カーネマン 友野典男(解説)

早川書房 2012-11-22
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「考える」ということを根底から覆させられる、智のコペルニクス的な1冊。
人間の脳の仕組みを、直感的で素早い判断を行えるシステム1と、理論的で時間をかけて決断するシステム2に分けて解説する。

システム2を使って思考し、経験を積んだ分野はシステム1を使用する・・・と想定したが、本書ではいかにシステム1が騙され、ご判断を下すか、システム2がいかにシステム1の判断を鵜呑みにしてサボるか、すなわち人の思考がいい加減であることを様々な実験結果で証明する。種々の実験結果も面白いが、それらを読んでいるうちに、あるいは読み終えたときに、自分の思考が信じられなくなっているだろう。なかなかボリュームあるが、下巻も楽しみである。
「領土問題」の論じ方 (岩波ブックレット)「領土問題」の論じ方 (岩波ブックレット)
新崎 盛暉 岡田 充 高原 明生 東郷 和彦 最上 敏樹

岩波書店 2013-01-10
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北方領土・尖閣諸島・竹島問題について、それぞれの専門家が論じる。対立の背景や事情を、それぞれの側から客観的に把握できる。
本書で記載されているナショナリズムという魔力による思考停止というのも、領土問題の実情をずばりと言い表している(最も、これは双方の国について当てはまるし、日本では、これに無関心という別問題もあろう)。

領土は国家の主権問題と考えていた。しかし、尖閣諸島が昔は台湾・沖縄の人々が国境を越えて生活の場としていたという事情を知ると、現地の人々の声が一切聞こえてこない領土問題というのも違和感を感じ得ない。

なお、北方領土は、これについて書かれている東郷和彦氏の以下の著書が詳しい。
「北方領土交渉秘録―失われた五度の機会」