本: 2013年2月 Archives

希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学
池田 信夫

ダイヤモンド社 2009-10-09
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辛辣な物言いに、大胆な発言に敵は多そうだが、池田信夫氏の考え方は論理が一貫しており、また着目点も鋭く、本書は日本人にとって必読とも言える1冊だった。

年功序列や終身雇用は日本の文化という思いこみが強いが、実は戦時・戦後の状況できあがった新しいものだということ、当時はそれが最適解だったことを示し、現状ではそれらが持続できないことを論理的に説明される。さらに、日本の置かれた環境から、悲しくも経済回復というのが非現実的であると帰結され、タイトルに繋がっている。

同じく日本の分析・対策提言の本を出している大前研一氏より、ポジティブな文脈が圧倒的に少ないが、全体を通して論理的と感じた。アベノミクスの一環として騒がれているリフレ論にも言及されており、正に今読むべき本だった。
考え方のコツ考え方のコツ
松浦弥太郎

朝日新聞出版 2012-09-20
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誤解を恐れずに言うと、タイトルは「考え方のコツ」というよりは「仕事術 続編」が適切と感じた(「仕事術」は読んでいないが、中身は仕事術そのものであった)。

大きく思考術、想像術、コミュニケーション術、時間管理術、グローバル術で構成され、それぞれで(仕事に対する)考え方や実践方法が述べられている。なるほど、と目から鱗のやり方も多数あり、それが独特の優しい言葉、簡易な表現で書かれており、やってみようと思わされる。

一方、全体を通して著者の経験をそのまま書かれているので、おやっ?と思ったときに確かめるのが難しい。例えば、P.93で”「なりたい自分」を想像し、きちんと計画してコツコツやっていくより、今、目の前にあることをしっかりと努めて、流れに身を任せた方がうまくいく”と書かれているが、これはPlanned Happen Stance Theory を知らないと、本当に夢を追うよりも適切なのか疑問に思うだろう。

肝心の考え方についても、著者の言う”多くの人が考えているつもりになっているだけで考えていない”は同意するも、肝心の「考える」という言葉の定義は文脈でアイデア出しと読めるも弱く、プロセスに終始しているため、違和感を覚えた。

良書だと思うが、タイトルと内容のギャップが気になり、終始、読んでいて落ち着かなかった。

思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書
佐々木 繁範

ダイヤモンド社 2012-02-17
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出井ソニー元社長の戦略スタッフとして、スピーチライターを勤めていた著者によるスピーチの実践本。その経歴からスピーチを対象としているが、プレゼンにも応用できる内容であった。

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大での卒業演説を中心に、ハリー・ポッターの著者J・K・ローリングなどの演説を紹介し、内容の構成と伝え方を解説。内容は非常にシンプルであり、いかにメッセージを抽出し、伝えるか、またそのために準備するかが力説されている。所々、及び最後には著者のソニー時代の逸話も挿入されており、読み物としても楽しめる。
竜馬がゆく〈3〉 (文春文庫)竜馬がゆく〈3〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1998-09-10
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3巻では勝海舟が登場、めまぐるしく状況は変化し、坂本竜馬の考えも倒幕に定まってくる。1巻と2巻は序章、3巻より物語が始まると言っても過言ではない。破天荒だが凡人が思いつかない構想、大局観など、今まで剣客でしかなかった竜馬の魅力が一気に花開く。
エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)
石井 彰

NHK出版 2011-07-07
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3.11以降、原発を停止し、円安による燃料高も増し、じわじわと電気代にも影響が出始めた昨今。結論から言うと、本書はエネルギー問題を考えるのに最適な1冊だった。
本書を読み、エネルギー問題をあまり理解していなかったことを思い知らされる。また、他の文献・報道含め、エネルギー問題と電気の問題を混同していることを気付かされる。前書きの「そもそもエネルギー問題はなぜ重要なのか」という命題に答えられる人がどれだけいるだろうか。様々な示唆を与えてくれた1冊である。

人類が火を使うようになったころから、牛馬、木炭、石炭、石油、そして原子力・・・人類の発展には、必ずエネルギーのイノベーションがあった。逆に、エネルギーが退化するということは、単に不便な生活になるのではなく、文明が崩壊することを意味する。そもそも、電気も一次エネルギーの1/4相当でしかないため、節電だ電気料金だと、電気だけを考えていてもエネルギー問題に十分対処できない。
エネルギー源も、再生エネルギーが主力になり得ない根拠、原発の弊害、石炭の環境汚染、等々、まんべんなく評価する。

一方、早急な論法で結論ありきに感じるところがある。
最終的な解決策として、副題にもあるが天然ガスに帰着している。サハリンからのパイプライン計画が独占の崩壊を恐れた日本の電力会社の反対で頓挫したことなどは、もっと世間一般に知らされるべきであろう事実も含めた提言は好感が持てる。しかし、原発の評価がメルトダウンを起こさない最新の原子炉など触れずに危険の一言ですます点が気になった。
また、現在の日本では契約上の問題から、すぐにシェールガス革命の恩恵(低コスト)を得ることができない。 事故の賠償がある東電以外でも、原発を長期停めるコスト高を資産売却や人件費圧縮でまかなうことが限界に来ているため、環境汚染の著しい石炭火力に頼らざるを得なくなってきている。
こうしたことから、天然ガスで云々というのは、少なくとも直近の問題を考える上では違う。
(繰り返しとなるがエネルギー問題を考える上でオススメの1冊であることには違いない。)


以下、備忘録(引用を改変して掲載)。

・ハーバード大学の自然人類学者リチャード・ランガムの仮説によると、人類は加熱することで、消化が良くなることで摂取エネルギーが上がり、結果、消化器系の減少とエネルギー消費の高い脳が肥大化し、発展したとのこと(P.38)。
・1952年のロンドンでは、石炭起源のスモッグによって、喘息等の呼吸器疾患が深刻になり、1日で4000人が死亡する大スモッグ事件が発生している(P.69)。
・ドイツが第二次大戦で独ソ不可侵条約を破って対ソ開戦に踏み切ったのも、日本同様に安価な石油不足が原因(P.138)。
・シェールガス革命の3つの技術とは、①地表から数千メートル垂直に掘った坑井を90度水平方向に屈曲させて水平掘削する(水平坑井)。②ガスの同通路網を作る多段階水圧破砕。③掘削状況を把握する微細地震探査。(P.170)
・石油や原子力のようなエネルギー源も食料も人間活動を支える同じエネルギー源である。しかし、歴史的な実績としては、日本でも世界でも、殆どの飢饉、餓死者は、食料を全く生産していない大都市ではなく、食糧自給率が100%を超えている農村で発生しているのである。例えば、日本の近世の三大飢饉である享保、天明、天保の大飢饉では、それぞれ東北を中心に30万人から100万人の餓死者が発生したが、江戸では極めて少数、それも江戸に来た東北の農民であった(P.198)。
竜馬がゆく〈2〉 (文春文庫)竜馬がゆく〈2〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1998-09-10
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千葉の道場から泥棒のお供を連れ国へ戻る。黒船以来、尊皇攘夷の勢力と幕府の抗争は次第に大きなうねりとなっていく。特に思想を持たない竜馬であったが、時代の流れに巻き込まれていき、藩ぐるみの抗争に限界を感じる竜馬は脱藩を決意する・・・といった辺りが2巻。

「坂の上の雲」もそうであったが、司馬遼太郎という人は小説を書くに辺り、相当な調査をしているのだろう。たまに”この人物については資料がなかった”という記載にあたり、これはフィクションでなかったと言うことに気付かされる。単なる歴史的事実を超えて、登場人物の人間性から関係まで追求し、まさに登場人物1人1人に魂を吹き込んでいる。故に、読む者を惹きつけるのだろう。