本: 2011年12月 Archives

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)
第1感  「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)マルコム・グラッドウェル 沢田 博

光文社 2006-02-23
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乱読の醍醐味、複数の本から1つの事象を多面的に見られる。偶然だが、少し前の「本日の1冊: 愛する二人別れる二人―結婚生活を成功させる七つの原則」の内容が本書で1章まるごと、紹介されている。
本書は情報量・千慮が必ずしも正しい判断にならない、いわゆるプロの直感を様々な事例で分析しようとする。クラウゼヴィッツの「クーデュイ(coup d'oeil)」にも通じる内容で、
・経験
・冷静(過度な心拍数の時は誤った判断を起こしやすい)
・無意識(直感)
などによるとされ、不確実な現代の生き方として学ぶところは多い。
面白いのが、アメリカで警官のパトロール、従来の常識を覆して2名ではなく1名で行う方が良いという話。1名の方が、気持ちの高ぶりによる誤った判断が少なく、慎重になるとのこと。

仕事のアマ 仕事のプロ──頭ひとつ抜け出す人の思考法(祥伝社新書227)
仕事のアマ 仕事のプロ──頭ひとつ抜け出す人の思考法(祥伝社新書227)長谷川 和廣

祥伝社 2010-12-01
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アマとプロの違いが何か、いくつもの例題に対してそれぞれの考え方の違い示す。例えばアマはプレゼン力についてわかりやすく伝える力と考えるが、プロはメリットを伝える力と説いたり、アマは本物を真似たらニセモノと考えるが、プロは本物から学び、より優れた本物を作り出すなど、ハッとさせられることが多い。後者は、まさに日本のwalkman, i-modeからiPod, iPhoneを作り出したスティーブ・ジョブズではないか。

”多くの知識を得るより、本物に触れて人間力をつける”、”現実を見て努力するより、強い思い、高い志を持って努力”、”専門分野の知識・見方にこだわるより、視点を高く、視野を広く”など、前半は心に刺さる内容が多い。しかし、文量に対してコンテンツ不足か、後半はいろいろ疑念を生じてしまう。例えば”プロは簡単にできないことだから挑戦する(P.51)”の後、”アマは「それはできません」とは決して言わないが、プロはできること、できないことをはっきり伝える”など、考え方の一貫性に迷いを生じさせられた。
放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのか
放射能と理性 なぜ「100ミリシーベルト」なのかウェード・アリソン 峯村利哉

徳間書店 2011-07-29
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フクシマ2011を受けて追記・翻訳された、放射能を考えさせられる1冊。
放射能の安全基準は100ミリシーベルトで必要十分であり、過度な恐怖や感情的・盲目的な意見に一石を投じる。放射線の影響を語る際には必ず線形か否か、即ちどんな微量でも悪影響を受けるか否かが問題となるが、本書では線形理論をばっさり切り捨てる。ヒロシマ・ナガサキの長期にわたる観察結果、チェルノブイリ、種々の実権を通じて、閾値以下の放射線は人間の修復効果により無害(一定量以下の出血が問題ないように)であることを示す。リスクとしてはたばこなどその他の要因を除外すべきでないこと、原子力業務従事者の平均寿命がその他の労働者よりも高いことなど、当然のことから興味深い話まで。その上で、過度な恐怖心から原発のコスト高、火力発電の公害を問題視する。

この理論は何がなんでも原発反対派には受け入れがたいものであり、議論にすらなり得ないだろう。しかし、3.11の後にメガソーラーを掲げた孫ソフトバンク社長や県内200万世帯のソーラー発電普及を公約に謳った岩神奈川県知事が最近になってトーンダウンや公約撤回したことからも分かるように、感情的で千慮欠いた思考は何も問題を解決しないことを改めて思い知らされる。

尚、本書はヒロシマ・ナガサキの追跡調査やチェルノブイリなどの事例をどこまで著者が確認したのか、各種記述についても逆に原子力のデメリットに盲目的と感じ得ないが、今(これから)のエネルギーを考える上で読む価値ある1冊。

P.S. P.189にある最新のアレバEPR(ヨーロッパ加圧水炉)ではメルトダウンした炉心融解捕獲区画が設けられているように、福島のメルトダウンも原発=悪というより、古い(50年も前の)設計の問題であることを多くの人も知るべきであろう。でなければ、何が安全で何が危険か判断できない。
愛する二人別れる二人―結婚生活を成功させる七つの原則
愛する二人別れる二人―結婚生活を成功させる七つの原則ジョン・M. ゴットマン ナン シルバー John M. Gottman

第三文明社 2000-03
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夫婦喧嘩は犬も食わぬではないが、古くも永遠のテーマとも言える結婚生活について、16年・1000数十余組の夫婦を面接、そのうち650組の夫婦を14年間追跡調査した研究結果より、関係を改良・改善・強化する7つの原則として説いた、世界各国でベストセラー書。恐ろしくもあり、興味深くもあるのは、研究の成果から夫婦の言動を5分間観察するだけで、平均91%の確率で幸福な結婚生活を送るか、離婚するか言い当てられるという。(P.14)

性差、育った環境差、今の生活差、様々な差がある以上、齟齬が生まれるのは当然でもある。その上で、妥協やあきらめではなくよりよい関係を育てていくか。男女それぞれのマイナス行動、望ましい行動、男女それぞれのセックス・出産に対する考え方の違い、新しい発見から当然のものでも再考させられるものまで、いろいろ。
随所で出てくる質問集(例えば、”配偶者の賞賛できる点を三つ、すぐに言える。 はい・いいえ” )の回答結果から出される診断内容、前述の通り多く・長期のサンプリングが基になっているだけに、考えさせられる。趣味、価値観、目標、いつのまにかベクトルずれていることすら気付かなくなっていないだろうか。

これから結婚するカップルから熟年夫婦まで、いずれの世代にも一読の価値ある1冊。
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か小松 秀樹

朝日新聞社 2006-05
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医療ミスや薬害問題、時には産婦人科での訴訟問題など、ひとたび事故が起きれば医療従事者がマスコミ・検察から極悪人扱いされる現状に対し、警笛を鳴らす。航空・原子力など、安全に関わる分野ではどこもそうだが、何か事故が起きたときに、日本では常に過失を犯した人を裁く風潮があるが、どこかの国の高速鉄道・衝突事故のようで、それは著者の言うとおり何も原因の解決にならない。例えば航空の世界では、アメリカでは事故を正しく報告して原因解明に協力する者は罰しないが、日本では原因解明よりも過失の立証が優先される。医療の世界も同様で、強盗や殺人同様にミスを犯した者を扱うことで、医者は萎縮すると著者は説く。

最初は「医療に完全はない」との言葉に、医者が言うことかと疑問を持ったのも確か。しかし、原子力問題同様「絶対」を求めていては冷静な議論ができないのも確かである。そして後半からは現在の医局システムの弊害、そして責任が少なく収入の多い開業医(参考 開業医の月収1割増、231万円 09年比、勤務医の1.7倍 出典:日経)ばかりに偏って行く問題など、客観的に医療側の問題提起もする。
その上で、策として
・開業医への責任委譲、患者と専属医契約を持ち、病院へは紹介状なしに診療できなくする(開業医のゼネラリスト化)
・補償制度の拡充(ごく一部の人が賠償金を得る訴訟から転換)
など、他の国の制度・データを示しながら提言する。

医療の現状を知る、今後を考えるのにはもちろん、「ミス」を分析して根本原因を追及・改善して行くプロセス(トヨタなどの事業の生産プロセスも題材にしている)も参考になり、非常に中身の濃い1冊。
ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)
ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)田沼 靖一

幻冬舎 2010-07
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「死」という永遠のテーマを、細胞レベルのメカニズムから生きるための「死」という観点で千慮されている。
細胞には自らを殺す自死(アポトーシス)というプログラムがあらかじめ組み込まれている。個々の細胞が個体全体を認識し、不要な細胞が自ら死んでいくことが個体を個体として統制しているという。オタマジャクシがかえるに生まれ変わるように。また、細胞の生まれ変わる回数は種によって予め決まっており、人間だと50~60回、すなわち人間の寿命を迎えることになる。死は進化のためにも必要なプロセスであり、細胞レベル、個体レベル、そして星、宇宙まで万物に誕生~寿命を迎える仕組みがそなわっていることは、神秘的ですらある。

さらに本書では、死から病気への治療法、すなわち生への展望を説く。ガン細胞は日々生まれて消滅していく中、消滅しない細胞がガン発症になるという。それら異常をきたしたガン細胞、あるいはHIVウィルスなどにアポトーシスを組み込むことでガンやAIDSの治療とすることの可能性に、ある種のロマンを感じる。