本日の1冊: 放射性セシウムが人体に与える 医学的生物学的影響: チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ

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放射性セシウムが人体に与える 医学的生物学的影響: チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ放射性セシウムが人体に与える 医学的生物学的影響: チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ
ユーリ・バンダジェフスキー

合同出版 2011-12-13
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チェルノブイリ時代は得体の知れぬ恐怖心の方が大きかった放射能(一説には、冷戦時代の核武装の正当性のための情報操作とも)。フクシマ以降はLNT仮説の反証がMIT(マサチューセッツ工科大学)で発表されたり、徐々にその危険性が科学的に解明されつつある。即ち、低線量・長期被爆・内部被爆の確率的影響は数値比較することで他の危険因子(健康不足、喫煙、飲酒、etc.)ほどではないこと、また放射能事故の実害は避難やデマ・差別、不安と言った心理的ストレスの方が大きい。

本書はゴメリ医科大学の学長だった著者が、放射線被曝の研究成果として、未だ実害が認められていないセシウム137の危険性を述べる。別件で逮捕・禁固刑を受けたりと、いかにも口封じ的な背景も気になり手に取るが・・・

結論から言うと、タイトルにもある”放射性セシウムが人体に与える描く的生物学的影響”の実証に至っていない、と感じる。その理由として、まずはデータの示し方がある。構成は大別して、動物実験や実態調査によるセシウム取り込み経路や濃度の実態、セシウムが引き起こす症例、そして長期的な影響、(+防護方法)となるのだが、総じて、提示するグラフの殆どにおいて、母数や範囲の提示が無いので納得性がない。次に、検討範囲というか、反証をしていない。特に後半の長期的影響にあるのだが、ヨーロッパ諸国のガンの推移を示すところなど、セシウムの濃度との関係を示しておらず、またその他の因子を考慮していないので必要十分条件となっていない。最後に、論理構造が弱い。文章で示す内容としての根拠がないところが多い。例えば、P.47で文はゴメリ州のガン増加を述べているが、データ(グラフ)ではヨーロッパにおけるガンの死亡率として旧ソ連のデータを示したり、最終的な結論では今まで述べていない数世代への影響を訴えるなど論理の飛躍が見られたりする。即ち、本書はタイトルの内容を訴えることが大前提であり、根拠は後付けという印象を持たざるを得なかった。

P.S.本書は後半に、まるっきり同じ内容で英文バージョンも掲載している。そういう意味では、とても勉強になる。

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This page contains a single entry by Yuki published on 2012年7月 6日 22:59.

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