2011年4月 Archives
タフラブという快刀 | |
信田さよ子 梧桐書院 2009-11-17 売り上げランキング : 28956 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
一般的に言われている(思いこまれている)尽くす愛、献身的な愛を否定し、見守る愛「タフラブ」を提唱する。相手のため尽くすというのは自己満足だったりするというのに共感したものの、例示される内容がひどく、偏って見えてしかたない。著者もそれを懸念されていたとのことだが、タフラブという概念をカウンセリング受ける状況を例に、それを普遍的な一般論のように語るのには違和感を感じ得ない。
タフラブという概念自体には、うわべだけのきれい事をぬぐい去り心の重りが解ける効果が期待できるものの、誤解を恐れずに言えば、書物としての本書は局所的・感情的な内容と感じざるを得ない。
失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) | |
戸部 良一 寺本 義也 鎌田 伸一 杉之尾 孝生 村井 友秀 野中 郁次郎 中央公論社 1991-08 売り上げランキング : 610 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
太平洋戦争における日本の敗戦を、物量などは一旦抜きに戦略を主眼として、ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ海戦、沖縄戦と6つの戦闘にポイントを置き考察する。米軍と日本軍の比較から真理、即ち戦略や組織としての失敗を追求していくのだが、今に通じる普遍的な内容で、読みながら現代の話と錯覚する。
まず米軍との比較だが(前述通り物・人の量は抜きに)、以下P239の表(抜粋版)のようにまとめられている。大きく戦略、組織に分け、そこから1つ1つ分析されているが、現代でも思い浮かぶ事象がちらほらある。
日本軍 米軍
戦略 戦略策定 帰納的(インクリメンタル) 演繹的(グランドデザイン)
戦略オプション 狭い 広い
技術体系 一点豪華主義 標準化
組織 構造 集団主義 構造主義
学習 シングルループ ダブルループ
評価 動機・プロセス 結果
最終的な結論として、自己革新組織の必然性を問う。
組織が継続的に環境に適応していくためには、組織は主体的にその戦略・組織を環境の変化に適合するように変化させなければならない。(P.264)
即ち、日本軍は日露戦争の勝利に酔いしれ、その時代の戦略を盲目的に信じ、官僚的な組織で自らの革新を起こせなくなっていた。ところで、
およそイノベーション(革新)は異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。官僚制とは、あらゆる異端・偶然の要素を徹底的に排除した組織構造である。(P.273)
は身近で思い当たるところも多い。
北方領土交渉秘録―失われた五度の機会 | |
東郷 和彦 新潮社 2007-05 売り上げランキング : 169239 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
以前は2島の先行返還などの可能性もニュースに出ていたが、鈴木宗男氏、佐藤優氏の逮捕を機に進展が見られなくなり、民主政権の今、完全に冬の時代になっている北方領土問題。問題の本質を知るためにも過去の交渉内容の把握が必要だが、本書は3回のモスクワ大使館勤務を筆頭に、ロシア関係で17年携わられた東郷氏による、交渉秘録。”秘録”というとよくゴシップや著者の自慢話の類が見受けられるが、本書は著者の失敗も含め客観的に記述されており、冷静に分析されている。
どのように下地作りをし、どのように準備し、どう交渉してきたか。関わっていた人だから書ける側面が多く、読んでいて非常に面白い。いままで自分が理解していた北方領土の交渉は、マスコミによる、しかも表面的な部分のみであったと痛感させられる。
また、読み物としての北方領土の交渉実録以外に、”交渉”の参考書としても有益な1冊である。とくにエピローグに記載された、著者の母が死の床で語った祖父の言葉という内容から下る以下の内容は、考えさせられる。
「交渉で一番大切なところに来た時、相手に『51』を譲りこちらは『49』で満足する気持ちを持つこと」と言った。
(略)
ここで言う「51対49」とは、足して二で割るとか、大体半々くらい譲歩するとか、そういうことを意味してはいなかった。(略)それは交渉ぎりぎりの時点に来たときに、自分の立場だけではなく、相手がどういう立場に立っているかを理解する意志と能力の問題であるように思われた。(P.390)
巨大翼竜は飛べたのか-スケールと行動の動物学 (平凡社新書) | |
佐藤 克文 平凡社 2011-01-15 売り上げランキング : 43452 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
巨大翼竜が飛べたのか否か、タイトルでの問いに対する著者の回答は最終章まで登場しない。最初に断り書きがあるとおり、少し拍子抜けさせられる。が、読み始めると著者の着眼点、研究に対する熱意にぐいぐいと引き込まれる。
速度、深度などを計測する「データロガー」をペンギン、うみがめ、アホウドリなどに取り付けることで、それらの行動を記録。そこから、体重と羽を動かす周期・速度などとの関係を明らかにしていく。導き出した公式も掲載しているのだが、それらは平易な文章で記述されており、素人でも、なるほどと納得させられる。
所々、研究者の裏側をかいま見られるようなコラムも。
それらを読んでいくうちに、ぐいぐいと著者の世界へ引きずり込まれる。そして最終章。さて、巨大翼竜は飛べたのだろうか?
P.S. 以下の後書きが3.11東日本大震災との関連を想像させられ、非常に気になる。読み終えてHPを確認するが、著者らは無事だった模様。
2010年12月、この時季にしては妙に暖かい岩手県三陸沿岸にて (P.279)
Notes Left Behind | |
Brooke Desserich Keith Desserich William Morrow 2009-10-27 売り上げランキング : 26980 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
がんにより僅か6歳で生涯を終えたElenaは、生前、お母さん・お父さん、妹のGracieへ宛てた愛のメッセージを数百通も家の中あちこちに隠していた。Elenaの他界後、日々新たなメッセージが見つかったという。
問題プロジェクトの火消し術―究極のプロジェクト・コントロール | |
長尾 清一 日経BP社 2007-07 売り上げランキング : 147398 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
計画やコントロールといったPreventive(予防的)な解説本は山ほどあるが、実際にはかなりの確立で遭遇する、問題となった後の対処について記載された書籍は少ない。本書はまさにそんなテーマを真っ正面から取り扱っており、内容は具体的に論理だった”火消し”の手順が説明されている。その際に使用するワークシートのサンプルなど、これだけでも参考になる。単元毎には、そこらにありそうな問題プロジェクトの挿話が読み物としての魅力も高めている。
言葉はなぜ生まれたのか | |
岡ノ谷 一夫 石森 愛彦 文藝春秋 2010-07-13 売り上げランキング : 21530 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
カラーイラスト多く、絵本のようにさらっと読めるが、内容はなかなか奥が深い。
研究結果として、
・ことばの4条件
・上記4条件のうち、いずれか1つをもつ動物の紹介
・ことばの発祥から現代までの歴史
がロジカルにまとめられている。主題であることばの理解もさることながら、疑問→仮説→検証のステップの実例として、物事を単純化して表現する例として、様々な視点で参考になる。
シンプルだけど奥が深い、奥が深いけどシンプルな1冊。
人はなぜ逃げおくれるのか ―災害の心理学 (集英社新書) | |
広瀬 弘忠 集英社 2004-01-16 売り上げランキング : 1280 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
”人は災害が起こったとき人々はパニックになる”---一般的な常識であるが、それは正しくないという。火事などが発生しても「たいしたことありません」とパニックを恐れ施設側、他人事と軽視する人々。本著では様々な災害事例とともに、生き残るために必要な条件を考察する。紹介される事例は各国の天災、函連絡船「洞爺丸」の沈没、開拓時代に西海岸を目指し越冬する人々など、バラエティに富んでいる。また、阪神大震災の事例を始め、PTSD、災害ボランティアなど身近に関係する情報も多面的に紹介されている。
数ヶ月前に図書館で予約して本だが、東日本大震災を契機に現状の理解、津波や地震に対する防災のあり方について、考えさせられる。
以下、末梢だが備忘録として。
・パニックはギリシャ神話、「パン」という半獣神の名が由来。(P.15)
・日本語には、英語のサバイバーに対応する言葉がない(P.152)
→英語ではSurvivor(生存者)だが、日本語では”被災者”とNegativeな言葉となる。